1つのマロングラッセが、人生を変えた。尾車親方(元大関琴風)は中学1年の春に、佐渡ケ嶽部屋を初めて稽古見学。運動嫌い、教員志望ながら176センチ、105キロと大柄で、大関琴桜(のちの横綱)に当時は珍しい菓子をもらった。

 「甘ぐりだったら、相撲取りになっていなかったな。うまかった。大学に行きたかったんだけど『ここから良い学校に通えば』と言われて。来てみたら相撲部屋だった。計られたな」

 最初は琴桜の自宅に住み、勉強机も買い与えられた。だが学校から帰ると公園に連れられ「なぜか四股とかすり足とか教えてくれる。変だな~と思ってたよ」。後に先々代佐渡ケ嶽親方(元小結琴錦)にばれて14歳で入門すると、大けがを乗り越えて大関まで昇進した。「新十両も18歳だよ、この俺が。ビックリするよ」と懐かしむ。

 巡業部長に就任直後の12年春巡業で、頸椎(けいつい)を捻挫して首から下がまひした。だが決死のリハビリで回復。昨年末には使っていたつえを捨てた。「人の一生は、定規で測られたようにはいかない。45年も相撲界にいて、今は事業部長になった。最後は少しでも相撲界に恩返しをして去って行けたらな」。失うものは、もうない。【桑原亮】

 ◆尾車浩一(おぐるま・こういち)元大関琴風。本名・中山浩一。1957年(昭32)4月26日、三重・津市生まれ。71年名古屋で初土俵。75年九州で当時史上6位の年少記録(18歳6カ月1日)で新十両。81年九州で大関に昇進した。85年九州で引退後に「尾車」を襲名。87年3月に独立した。通算561勝352敗102休。