ボクシング前WBC世界バンタム級王者・長谷川穂積(29=真正)と前同フェザー級王者・粟生隆寛(26=帝拳)が出場するダブル世界戦(11月26日、愛知・日本ガイシホール)が27日、名古屋市内で正式発表された。ともに2階級制覇に挑む試合の同日開催は日本史上初。2階級上のWBCフェザー級王座決定戦に臨む長谷川は「王者で年を越したい。終わりよければすべてよし」と20代ラストマッチを飾る。

 ずっと長谷川の目の前にあるものが、なかった。「いつもはこの机の上にベルトを置いて会見していたが、今日はない。ウィラポンに(世界王座初)挑戦した時のよう。懐かしいような、初心に戻った気持ち」。5年7カ月ぶりに無冠選手として臨む世界戦。その3週間後には30歳になる。

 「王者で年を越したい。それが一番大きい。ずっとこだわってきた。終わりよければすべてよし、ですよ」。開催地は自身初の名古屋。“尾張”に引っかけたわけではないだろうが、6年連続で王者で新年を迎える意気込みは強い。

 4月30日のWBCバンタム級王座11度目の防衛戦で、モンティエルに4回TKO負け。以来約7カ月ぶりの再起戦で、日本初の「飛び級」での世界2階級制覇に挑む。相手の同級1位ブルゴス(メキシコ)は25戦全勝。スピードは通用するのか。パワーの違いは。長谷川は不安を隠さない。「どういう展開になるのか自分でも分からない」。

 ただ解放された部分もある。「防衛中は験担ぎが多すぎた。一緒に減量しなくていいから、嫁さんも喜んでる」。試合日に決まってはいていたパンツはもう変える。2日前の25日には8度目の結婚記念日を迎え、妻泰子さんから珍しく激励の手紙をもらった。減量は3・6キロも楽になる。

 「バンタム級では減量がきつかった。1回から足がつらないよう戦ってた。フェザーでは気にせず最初から動ける」。フェザー級の他団体には人気王者ぞろい。勝てば統一戦など、さらなるビッグマッチに道が開ける。「長谷川穂積の第2章を作りたい」。20代最後のリングは、そのプロローグでもある。

 WBC世界スーパーフェザー級に挑む粟生は2階級制覇で「これまで親せき以外では1人しか会ったことがない」という珍しい名字を、より一層アピールする。王者タイベルトには1度屈辱を味わった。7月下旬に英国カーディフで開催されたWBC主催の祭典「王者たちの夜」で対面したが「だれだ?

 という顔をされた」と苦い顔。「ボクのことは認識していなかったので『このヤロー、覚えとけよ』と思った」。内容と結果で、相手を後悔させるチャンスがやって来た。

 この日も、追い打ちをかけるような出来事があった。記者発表でひな壇に座ると、手元の資料に「粟生」ではなく「“栗”生」と印刷されているのを発見。「よくある間違いです。変換が難しくて、アオウではボクの携帯でも漢字が出てこないので」と笑って済ませたが、知名度アップを痛感させられた格好。2つ目のベルト奪取へ、発奮材料は幾つもある。