<プロボクシング:WBC世界フライ級タイトルマッチ12回戦>◇8日◇東京・両国国技館

 元WBA世界ミニマム級王者・八重樫東(30=大橋)が、飛び級で世界2階級制覇に成功した。WBC世界フライ級王者・五十嵐俊幸(29=帝拳)に体格で劣る中で押し勝ち、強烈な右拳を武器に主導権を握った。11回にはダウン寸前まで追い込み、3-0の判定勝利を飾った。アマ時代の4戦4敗の屈辱をプロ舞台で晴らし、因縁を決着させた。

 泣いた。リング上で八重樫は師匠に確認した。「これ夢じゃないですよね?」。大橋会長に頬をつねられて痛みを感じ、また涙があふれた。飛び級での2階級制覇。「これはパッキャオが巻いたもの。男のプライドをかけて臨んだ一戦でした」。尊敬する世界6階級制覇王者パッキャオが最初に巻いたWBCフライ級ベルトをぐっと抱きしめた。

 2階級上の五十嵐に押し勝った。序盤から強烈な右拳が王者の顔面を何度もとらえた。4回終了時の採点はジャッジ2人にフルマークで支持された。直後から体格で上回る王者から重圧をかけられた。

 だが横浜から都内まで往復3時間の長距離通勤で1年間、フィジカル担当の土居進トレーナーのもとで強化した肉体で押し返した。八重樫は右目上、五十嵐も両目上をともにバッティングでカットした流血戦。最終12回も左右両ボディーブローを8連発。最後までペースを握る完勝だった。

 1カ月前まで左対策に迷った。左のアマ選手とのスパーリングでも歯がたたなかった。見かねた大橋会長は対戦経験のある元WBCライトフライ級王者・張正九(韓国)の試合映像を手渡した。「韓国の虎」張が83年3月、サウスポーの同級王者サパタとの再戦で、低い重心で相手の懐に入って連打を放ち、3回KO勝ちした一戦。八重樫は「これだ、と。作戦通り」と笑みをこぼした。

 アマ時代4戦4敗の五十嵐を下し「向こうも気持ちが強いが、ボクの方が気持ちが強かった。これでオレの勝ち」。まだリベンジする相手がいる。昨年6月、WBA・WBC世界ミニマム級団体統一戦で負けた井岡一翔。いずれ井岡がフライ級に上げることは知っている。「井岡戦があるから今のボクがある。やりますよ」。八重樫はリベンジロードを見据えた。【藤中栄二】

 ◆八重樫東(やえがし・あきら)1983年(昭58)2月25日、岩手・北上市生まれ。黒沢尻工1年でボクシングを始め、3年時の総体でモスキート級優勝。拓大2年時の国体でライトフライ級優勝。卒業後に大橋ジム入りし、05年3月プロデビュー。06年4月に東洋太平洋ミニマム級王座獲得。07年にプロ7戦目で当時のWBC同級王者イーグル京和に挑戦も判定負け。09年6月、日本同級王座決定戦を制し防衛3回。11年10月にWBA世界同級王座獲得。家族は彩夫人と長男圭太郎君、長女志のぶちゃん。身長160センチの右ボクサーファイター。

 ◆井岡一翔の近況

 昨年大みそかにWBA世界ライトフライ級王座を獲得して2階級制覇を達成。次戦は5月8日に大阪・ボディメーカーコロシアムで、同級3位ウィサヌ・ゴーキャットジム(29=タイ)と初防衛戦を行う。井岡陣営は3階級制覇も視野に入れており、年内にもフライ級へ上げる可能性がある。