劇団民芸と劇団前進座の会報の最新号にある人の追悼記事が掲載された。

 榧野明(かやの・あきら)さん、71歳

 一般の人には無名だが、演劇道具輸送のパイオニアとして、多くの演劇人に愛された。古くは劇団民芸の名優だった宇野重吉さんは地方公演で移動する時は、榧野さんの輸送トラックの助手席が指定席だった。宇野さんが歌舞伎「仮名手本忠臣蔵」に登場する萱野(かやの)三平の名から「三平(さんぺい)ちゃん」と呼び、それが愛称となった。黒柳徹子さん、佐藤B作さんらも地方公演の時には榧野さんを必ず指名して、取り合いになることもしばしばだった。

 62年、大阪の運送会社に入社。たまたま劇団民芸の道具を東京と大阪間で運んだことをきっかけにして、半世紀にわたり、各劇団の大道具、小道具、衣装など舞台の道具を専門に運び続けた。2時間前に現場到着すること、効率的な搬入法を生みだし、破損防止に万全を期す、何よりも演劇を愛したドライバーとして信頼が厚かった。大道具の搬入、搬出から仕込み、舞台転換の手伝いに制作補助、手料理を振る舞ったり、求められて舞台に立ったこともあった。

 後継の運転手育成にも力を注ぎ、00年には舞台芸術を支える裏方さんに贈られる「ニッセイ・バックステージ賞」を受賞した。数年前から病気で体調を崩していたが、師匠と仰ぐ宇野さんが亡くなった73歳まで「トラックに乗る」と言い続けた。亡くなる2カ月前までハンドルを握ったが、その願いはかなわなかった。【林尚之】