今、宝塚OG版「シカゴ」のニューヨーク公演取材のため、ニューヨークに来ています。宝塚歌劇団は1992年にニューヨークで公演を行っていますが、その時はショーのみで、今回のようなミュージカルでの公演は初めてです。それだけに出演者も女性だけが演じる「シカゴ」にニーヨークの人々がどう反応するか、不安もあったようですが、舞台は最初から最後まで盛り上がりました。その最大の理由は、公演したのが演劇ファンが多く集まる、リンカーンセンター・フェスティバルだったことにあるように思います。

 同フェスティバルは世界の良質な演劇を招いて、1カ月間に上演する夏恒例のイベントで、毎年、楽しみにしているファンも多いそうです。かつて、中村勘三郎さんの平成中村座「法界坊」、昨年は蜷川幸雄さん演出、宮沢りえ主演「海辺のカフカ」を上演しています。今回は宝塚OG版「シカゴ」と観世宗家の能が日本から参加しました。そして、現地の人と観劇しながら感じたのは、彼らは純粋に演劇を楽しもうとしていることでした。

 オープニングで出演者が登場しただけで歓声が上がり、英語字幕の上演でしたが、ブラックユーモアにあふれたセリフの1つ1つに笑い転げ、悪徳弁護士ビリー役の峰さを理が男役の姿でさっそうと現れると、「ワオーッ」と感嘆の声も飛びました。そんな観客のダイレクトな反応に、出演者も「観客にのせられた」「客席に温かさを感じた」と、当初の不安が吹き飛んで、イキイキと演じることが出来たようです。日本から来た、女性だけの宝塚OG版の良さ、面白さを見つけて楽しもうという、ニューヨークの演劇ファンの懐の大きさを感じました。

 今回は滞在日数は短いのですが、いくつか舞台を見ようと思っています。その1つは久しぶりにリバイバル上演される「キャッツ」。7月31日からの本公演を前にプレビュー中ですが、新演出でどう変わっているが注目です。

 また、1番見たかったミュージカル「ハミルトン」は今回も断念しました。昨年6月にスタートしてから、チケットが取れない公演と言われ、今年6月のトニー賞でベストミュージカル賞などを受賞してから、さらに取りにくい状況に拍車がかかっています。100ドルから200ドルのチケットがネットオークションなどで1000ドルを超え、毎日数枚出るキャンセルチケットのために前日から売り場に並ぶ人が出るそうですが、自分で並ばず、1時間10ドルでバイトを雇ってチケットを入手する人もいるようです。それでもネットなどで買うより安いのです。

 また、「レ・ミゼラブル」が9月でクローズします。ロンドンに続いて87年にブロードウェーで上演され、クローズと再演を繰り返し、14年に再演したものの、2年で幕を閉じるのは寂しさを感じます。「オペラ座の怪人」や「レ・ミゼラブル」はいつ見ても楽しめる定番で、ほかに見るものがない時は、1番安い席で見ていました。根強い人気のある作品なので、復活上演する日が来るはずです。【林尚之】