お正月にちょっと心配なことがあった。落語家桂歌丸(80)の入院だった。昨年12月にも持病ともなっている肺気腫のため1週間入院しているが、その時は「万全の体調になるまで、もう少し入院しては」という主治医の薦めを振り切って退院。自宅で静養するどころか、退院の翌日22日に群馬県で行われた落語会に出演した。その後も名古屋も落語会に出たりしたが、風邪気味となったため、28日の会長を務める落語芸術協会の納会は欠席。自宅で静養したものの、翌29日には若手が出演する落語会にゲストとして出演し、風邪を悪化させた。

 酸素吸入器のチューブを鼻につけている歌丸にとって、風邪は大敵だった。鼻水が出てくるため、吸入器が使えなくなるからだ。年明けの元日から行われた新宿末広亭の正月初席も体調を考えれば、休むという選択肢もあったが、落語家にとって、初席は何よりも大切にしている年始めの特別興行。歌丸は風邪を押して出演したが、結果は、さらに風邪を悪化させ、軽い肺炎を起こして入院する事態になった。

 歌丸は司会を務めていた日本テレビ系「笑点」を勇退した後、積極的に落語会に出演した。「『笑点』の歌丸ではなく、落語の歌丸として終わりたい」という思いからで、今まで以上に全国の落語会に出演しているが、今回はその思いがあまりに強すぎた。歌丸も今年8月で81歳を迎える。高座ではしっかりとした口調で観客を笑わせるが、楽屋入りの際は車いすで、出番直前まで酸素吸入器を使っている。実は主治医には「高座中でも酸素吸入器をつけてほしい」と言われているそうだが、そんな姿では高座には上がれない。歌丸はギリギリの状態で高座を務めている。

 今回の入院では、三遊亭小遊三、春風亭昇太ら「笑点」メンバーが歌丸の穴を埋めた。11日から浅草演芸ホール昼の部で歌丸はトリの予定で、病床の本人は出る気満々のようだが、関係者は「ここはしっかりと風邪を治して、体調が万全となるまで静養するように進言します」と言っている。【林尚之】