小説家の衣笠幸夫(本木雅弘)は、友人とスキーに出かけた妻夏子(深津絵里)をバス事故で亡くすが、愛は冷めており、悲しめないような冷徹な人間だと自覚している。そんな中、同じ事故で妻に先立たれた大宮(竹原ピストル)と、残された子供たちとの不思議な交流が始まり、ささくれだった心が洗われていく。

 「蛇イチゴ」「ゆれる」などの西川美和監督と、昨年「天空の蜂」などで映画賞の助演男優賞を総なめにした本木がタッグ。コンプレックスとプライドで固められた自我を前面に押し出しながら、優しい一面をかいま見せる本木。これまで人間の暗部、恥部を絶妙に切り取ってきた西川監督の見せ方とは正反対で、面食らった。人間的な魅力は今回の方が上だが、同監督のファンが見たいのは、どちらかといえば「あの人の意外な醜聞」ではないか。

 原作は、西川監督が自ら筆を執り、直木賞候補にもなった同名小説。最初から映像化を目指して書いた本だけに、約2時間の尺に無理なく収まっている。1年もの撮影期間をかけたことで、四季の移り変わりも美しく盛り込まれている。【森本隆】

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