雪組の2番手スター望海風斗が、顔に傷をつけた伝説のギャングを熱演している。東京・赤坂ACTシアター公演「ミュージカル アル・カポネ-スカーフェイスに秘められた真実-」(26日~6月1日)で、外部の劇場初主演。映画「ゴッドファーザー」「アンタッチャブル」などマフィア作品を参考に世界観を築いてきた。

 オールバックに髪をなでつけ、頬には傷、指に存在感のあるリング…。美貌と涼やかな立ち姿が魅力の望海だが、すっかり「マフィアのボス」だ。

 「ホラー映画は苦手ですが、マフィアものは大好き。バンバン撃つ作品を夜中に見て、自分が撃ったみたいな気になりますね。実際にはできないじゃないですか(笑い)。ストレスがたまっているとき、男役で勉強したいときに見ます」

 性格的に「マジメ」と言われる望海だけに、男役としてのたたずまいの参考にもしようと、「ゴッドファーザー」などハードボイルド作を見ていた。アル・カポネ役は大歓迎だった。

 「好きな時代ですし、男役ならマフィア、ギャングはあこがれ。アル・カポネにも興味はありました。まさか本人? でしたが。アル・パチーノのキレた演技のすごみをイメージして」

 今回、衣装も「チンピラからボスに」成り上がり、背広も着こなす。顔に傷を負った経緯も描かれる。

 「のし上がった過程、苦悩も描かれていて、共感していただける部分もあると思う。男同士の友情、裏切り、絆が濃く出ています。イタリア移民としてアメリカで生まれた誇り、屈辱が根底にあって、それが彼を突き動かしていたと思う」

 誇りとコンプレックスが入り交じった複雑な感情があったとみる。役作りの上では、持ち前の低音ボイスが生きる。内面を反映できる経験もあった。

 「自分が壁にぶつかったとき、ここで負けられない、引き下がれないとか」

 どの役柄も自分との接点を探す。今回は組替えだった。昨年末、初舞台後の配属から所属した花組から、雪組へ異動した。自身が男役の基盤を作った花組は、101年の伝統を誇る宝塚歌劇団で最初に誕生した組。思い入れは強かった。

 「もちろん、今は雪組がすごく楽しい。その前、もう『花組の…』って言えなくなるんだなとか、そんな切ない気持ち。花組で培ってきたことを胸に自分は強く進んでいくんだって誓ったことなど、役柄に投影できると思いました」

 異動直後の「ルパン三世」は、トップ早霧せいなの本拠地お披露目。望海はカリオストロ伯爵を好演。得意の歌唱力も発揮し、雪組に不可欠の存在になった。

 「私はもともと人見知りで、子供の頃から転校やクラス替えが苦手。クラス替えの後、1カ月は友達できなかったこともあるし! 花組にも10年いて、やっと慣れた感じで、相当な覚悟が必要でした。でも雪組の皆さんがどんどん来てくれたので、なじめました」

 すでに大阪公演を終えたが、今回、外部の劇場で初主演。雪組を背負い、宝塚を飛び出しての公演。共演には新人世代の若手もいる。

 「自分も昔、こういうところに悩んでいただろうなと、思い出した。(後輩とは)一緒に練習し、相談しながら、やってきました」

 繊細な心配り、経験に裏打ちされた芝居運び、スーツものが多かった花組で学んだ立ち姿をもって、新生雪組を支えていく。【村上久美子】

 ◆ミュージカル「アル・カポネ-スカーフェイスに秘められた真実-」(作・演出=原田諒氏) 禁酒法が施行された時代の米ニューヨーク、シカゴが舞台。貧しいイタリア移民からのし上がった伝説のギャング、アル・カポネの半生を描く。彼を取り巻く男同士の友情、裏切り、絆など、人間模様を映し出し、ダンディズムを表現する。彼を追う捜査官には、進境著しい新人公演最終学年7年目の月城かなと。

 ☆望海風斗(のぞみ・ふうと)10月19日、神奈川生まれ。03年、月組「花の宝塚風土記」では初舞台。花組に配属。09年「太王四神記」新人公演で初主演。10年「虞美人」で桃娘を演じ、初の女役。12年「Victrian Jazz」でバウホール初主演。昨年8月「エリザベート」でルキーニを好演、11月に雪組異動。身長169センチ。愛称「だいもん」「ふうと」。