星組・新トップコンビの本拠地お披露目「ガイズ&ドールズ」が、兵庫・宝塚大劇場で上演中だ。新トップ北翔海莉の相手役、妃海風(ひなみ・ふう)は、トップ娘役の輩出が3人目となる7年目の95期。一昨年には劇団理事の轟悠と共演し、轟の相手役を務めれば出世という“伝説”も実現させた。公演は28日まで、東京宝塚劇場は10月16日~11月22日。

 明るい性格そのままに弾む声。新トップ北翔は、妃海のあこがれの人だった。

 「最初、トップと言われたときは、うそや! って。おうちに帰って、やっと、本当の話かも…って」

 子どもの頃から宝塚ファン。歌、ダンス、芝居に加え、男役としてのあり方を極めようと努める北翔は昨年1月、専科から星組公演に出演。妃海は舞台袖から演技に見とれていた。

 「宝塚の男役ならではのしぐさ、芝居、セリフの言い回し。『そうそう、そこでその流し目が!』って。轟さんもそうですが、ファン時代を思い出しました」

 自宅でも北翔のCDを聴きこんでいた。そこに、まさかの相手役抜てきだ。

 「もともと私、命綱なしにジェットコースターに乗っているようにバタバタするタイプ。でも今は、北翔さんがいらっしゃるから、怖さがなくなった。『大丈夫。できてる』って、おっしゃってくれるので」

 人間の大きさも知り、北翔への愛情が増した。

 「北翔さんは、朝から晩までずっと、おけいこをして、一番疲れているはずなのに、下級生にまで気を配ってくださる」

 食事代わりにお菓子を食べる妃海を心配し、北翔がおにぎりを作ってくれたこともあった。「懐が大きい。こんな大暴れする娘役、私だったら嫌い」。けいこ場で“事件”があった。決闘に向かう北翔を、泣きながら止めるシーンだった。

 「私が遠慮していたので、北翔さんは『アメフットのタックルみたいに』って。単純な私は思いっきり当たって、北翔さんが尻もちついて倒れられた。真っ青でした」。だが、北翔は笑顔で起き上がり、妃海のドレスを心配してくれた。

 「私だったら嫌いになるぞ、シリーズがいっぱいある。感謝しかありません」

 妃海はもともと男役志望だったが、自分の男役としてのビジュアルが好みではなく、娘役を選んだ。「着物を着たときに肩幅がしっかりある男役さん、男っぽい感じが好き」。ファンゆえの目線、自らを俯瞰(ふかん)的に見る力もある。

 「ただ、食生活はダメ。夜ご飯をアイスクリームやチョコで済ませることも。でも結局は、ハートが健康じゃなければダメ。今は北翔さんのおかげで元気です。おにぎりと、ピラフをいただいたこともありました」

 娘役が男役に、手作りの弁当や菓子、小物などを渡すことは多いが…。劇団の定形にはまらない、新たな関係性を持つコンビだ。

 「私自身は、ほほ笑んで、後ろをついていく娘役が理想像でしたが、実際に自分が徹してみると、うまくできない。だから私らしく、愛情をガンガン表現して、受け止めてもらえる関係性を続けられれば」

 とはいえ、甘えてばかりもいられない。「この間初めて、おにぎりを作って…。北翔さんは目の前で食べてくれました。べちゃべちゃでしたけど…」。おにぎりに込めたひたむきな思いは、北翔にも届いたようだ。学年差は11年。大先輩のもとで、妃海も1歩ずつ進んでいく。【村上久美子】

 ◆ガイズ&ドールズ(脚色・演出=酒井澄夫氏) 50年に米・ブロードウェーで初演された傑作コメディー。宝塚では84年に大地真央、黒木瞳の月組で初演、02年には紫吹淳、映美くららの月組で再演。舞台は48年頃の米ニューヨーク。プレーボーイのギャンブラー、スカイ(北翔)は、仲間と、女を一晩で口説き落とせるか賭けをする。その相手は、お堅いことで有名な娘サラ(妃海)だった。

 ☆妃海風(ひなみ・ふう)4月12日、大阪府吹田市生まれ。府立北千里高を経て、09年「Amour それは…」で初舞台を踏んだ95期。星組配属。12年12月「めぐり会いは再び 2nd」で新人公演初ヒロイン。13年3月には外部劇場公演「南太平洋」で、劇団理事で専科スター轟悠の相手役ヒロインに抜てき。今年5月11日付で、新トップ北翔海莉とともにトップ娘役就任。身長164センチ。愛称「風ちゃん」「セブ」。