昨年7月に月組から専科へ移った星条海斗(せいじょう・かいと)が、入団17年目にして兵庫・宝塚バウホール公演「FALSTAFF~ロミオとジュリエットの物語に飛び込んだフォルスタッフ~」で初主演を射止めた。明日21日で幕を閉じるが、大酒飲みで好色と宝塚の主人公では異色キャラを演じきった。

 研17にして、新人公演以外で初主演。古巣の月組公演に専科からセンターへ。

 「(バウ初主演の)今が自分の旬。年輪、経験が味になって出せればいい。役柄も、普通は宝塚の主人公って王子様みたいな…だけど、それが、みんなに敬遠されるキャラ。若手の子だったら、傷ついちゃいますよ(笑い)。今の学年だからできる主人公だと思う」

 米国人の父にならい、星条旗から芸名をつけた。広く、大きな心で受け止める。今作の主人公は、シェークスピア「ヘンリー四世」などにも登場するイングランドの騎士・フォルスタッフ。大酒飲みで好色、臆病者、正直なゆえにトラブルが絶えない男だ。

 「素直で正直。何事にも一生懸命がゆえ、ありがた迷惑なこともいっぱいする(笑い)。立ち位置は(パイレーツ・オブ・カリビアンの)ジャック・スパロウみたいな感じ。でも、まっすぐなので、最終的には愛されるんですよね」

 今作演出の谷正純氏は、この主人公作を宝塚で実現させようと適任を探し、星条主演で実現した。

 「谷先生からは共通点として、何事にも一生懸命、人目を気にしない、自由だけどとても優しい。見た目は怖いけど、実はあったかいとか、恥ずかしいこと、いっぱい言われました」

 星条も若手時代から「よかれと思ってやって、裏目に出る」タイプだった。

 「誤解されやすい。正直に物を言うけど、うまく言葉にできなかったことも。似ているって思う。気持ちが伝わるまでは、めっちゃ、敵を作るところも!」

 今作では究極の自由人・フォルスタッフが、名作悲劇「ロミオとジュリエット」の物語に飛び込む。

 「フォルスタッフからすれば、生きているだけで丸もうけなのに、なんで家同士が、いがみ合うの? どうして恋人が結ばれない? と。すごくシンプル」

 この役を通して教えてもらったことがある。「ありのまま」と「勇気」だ。

 「今までは声楽もやらなきゃ、あれもやらなきゃ、と足し算だった。お休みの日もずっと追われていた。でも、何もしない私が今、残った物でどう勝負できるか? 引き算でやってみようと思ったんです」

 もちろん日々の努力や練習は大前提。その上で経験を信じて「ありのまま」に舞台へ立つ「勇気」を持つ。月組一筋で昨年、専科に異動。今春、初めて星組公演に出演した。「転校生のような新鮮な気分で刺激を受けた」と語る。

 専科から星組トップに就いた北翔海莉から金言を得た。北翔は専科時代、全組へスター格で出演した「専科の大先輩」でもある。

 「私はこの芝居、邪魔じゃないかな? と周囲を気にするタイプで。北翔さんは『専科なんだから、デーンと構えてなさい。やりたいこと、芸を自由に見せなさい』とおっしゃってくださった。心強かった」

 星条自身も、いずれは5組制覇が目標のひとつだ。

 「北翔さんは、目前の譜面に1000%の力を注いでこられた。すばらしい集中力。その姿勢が、いろんなことを引き寄せたと思う」。吸収する17年生。父の母国のように広大な「伸びしろ」が、まだまだ広がっている。【村上久美子】

 ◆バウ・ミュージカル「FALSTAFF」~ロミオとジュリエットの物語に飛び込んだフォルスタッフ~(作・演出=谷正純氏) シェークスピアが「ヘンリー四世」などの作中に生み出したイングランドの騎士、サー・ジョン・フォルスタッフを主人公にしたオリジナル作。大酒飲みで好色、威勢はいいが臆病者、その一方で機知に富み、憎めないキャラクターだ。そんな彼が「ロミオとジュリエット」に紛れ込み、切ない純愛物語が方向転換する。ロミオは暁千星、ジュリエットに美園さくら。

 ☆星条海斗(せいじょう・かいと)7月19日、横浜市生まれ。父が米国人で米国暮らしを経て、アメリカンスクール9回生(中3)で宝塚を初観劇。バレエ、声楽、児童劇団の経験もあり受験し合格。00年入団、月組配属。06年「暁のローマ」で新人公演初主演。昨年7月、専科へ移り同11月に月組「舞音」に、今年3月には星組「こうもり」に出演。身長173センチ。愛称「マギー」。