作家の百田尚樹氏(59)が自民党の若手勉強会で発言した「沖縄の2つの新聞はつぶさないといけない」をきっかけにしたドキュメンタリー番組が27日に放送される。

 百田発言のターゲットとなった新聞社は「琉球新報」と「沖縄タイムス」。MBSテレビのドキュメンタリーシリーズ「映像’15」は、8月4日から約1カ月にわたり、琉球新報の編集局に密着した。記者が名護市辺野古の米軍基地建設問題を取材する様子、白熱の議論をしながら紙面作りする動きを追った。

 今回のドキュメント番組のタイトルは「なぜペンをとるのか~沖縄の新聞記者たち」。

 沖縄で最も古い新聞として知られ、権力にかみつく「紙ハブ」とも呼ばれる「琉球新報」。カメラは新聞社の内部まで入り込み、「なぜ」に迫った。普段は取材する側の記者も編集局幹部もすべて実名で登場し、思いを語る。

 東京出身の松永勝利政治部長(50)は「お前、記者じゃねえよ」が口癖だ。沖縄大学を卒業後、新聞記者になった。政治部の米軍基地問題担当の島袋良太記者(31)の実家は嘉手納基地の近くにある。2年間、米ワシントン特派員だった経験を生かし「権力」に切り込む。同じく政治部の明真南斗(あきら・まなと)記者は入社2年目、中部支社で防衛局を担当。毎日のように辺野古での抗議デモを取材する。

 百田発言をきっかけにドキュメントの取材を始めたMBS報道局番組センターの斉加尚代ディレクター(50)は島袋記者の言葉が強く印象に残っているという。

 「在日米軍施設の約74%が沖縄にある。この偏った事実、つまり基地の割合が全国並みになれば、自分たちの報道姿勢はおそらく偏向とは言われないでしょう。事実が偏っているので自分たちは米軍基地に対して向き合って報じていかなければいけない」

 密着中、斉加ディレクターは百田発言をどう思うか明記者にぶつけてみた。

 「自民党の勉強会で出た発言ですよね。限りなく政権に近い人から言われたことなので『褒め言葉』と思いました」

 その言葉には、記者として沖縄県民とともに現実を受け止め、足を使って取材した者だけが持つ「反骨」を感じた。

 百田発言に対し「琉球新報」の潮平芳和、「沖縄タイムス」の武富和彦両編集局長は連名で「政権の意に沿わない報道は許さないという“言論弾圧”の発想そのもの」だとする共同の抗議声明を発表した。

 番組は武富編集局長にもマイクを向けた。「なぜペンをとるのか?」。その答えは明快だった。

 「米軍の施政権下にあるときから一緒なのですが、一方に絶対的な権力を持っている権力者がいるわけですよ。もう一方では基本的人権すら守られていない人々がいる。そのときによく中央のメディアが言うのは『公平な報道』。中立でどちらの言い分も言えということが本当に公平なのか? 明らかな力の不均衡がある場合には、弱い側の声をより多く取り上げるべきじゃないかということです。この辺が偏向だと言われるのでしょう。力の不均衡がある以上、弱い者に肩入れする、弱い者の声を代弁することこそメディアの責任というか、あるべき姿だと思っています」

 番組の最後には「お前、記者じゃねえよ」の松永政治部長がインタビューに答えた。

 「沖縄戦を体験した沖縄で戦争を繰り返しちゃいけない、そういう言動をするために沖縄の新聞社は存在していると思う」

 偏向報道…、異質…。記者を叱咤(しった)激励する“鬼部長”は涙を見せながら、沖縄の新聞社がつぶれない、いや、つぶされない本質に迫る言葉を続けた。

 27日深夜0時50分からMBSテレビ(関西ローカル)で放送される。