NHKが16日、「NHKスペシャル」など佐村河内守氏を取り上げた番組についての調査報告を発表した。同局の公式ホームページに掲載したほか、この日放送した情報番組「とっておきサンデー」で制作担当者が、取材過程や偽装を見抜くことができなかった理由などを説明した。調査では佐村河内守氏(50)本人への聞き取りも実施したという。

 NHKは、昨年3月放送のNHKスペシャル「魂の旋律~音を失った作曲家~」などで佐村河内氏を取り上げた。「とっておきサンデー」では視聴者から「偽装になぜ気付かなかったのか」など厳しい意見が寄せられたことを紹介。調査チームを設け、ディレクターやプロデューサー、カメラマンのほか、今月10日には佐村河内氏本人からも聞き取りを行ったという。

 生活・食料番組部長の松本浩司氏によると複数の理由で偽装を見抜くことができなかったという。企画段階で「既に著名な音楽家や評論家から音楽性を高く評価されていた」と受け止め、「音楽界で評価は分かれていたが、本人が作曲していないのではと疑わせる情報はなかった」という。

 取材過程では譜面を書く場面の撮影を何度も交渉したが断られたという。NHKスペシャルの企画として制作した「ピアノのためのレクイエム」が完成する日も記譜場面の撮影を交渉したが拒否され、いったん同氏の自宅を離れ、12時間後に再訪問した。すると音符が書き込まれた楽譜が机の上に置いてあったという。同氏は、撮影前日にゴーストライターの新垣隆氏に依頼してあった楽譜が宅配便で届き、これを机の引きだしの中に入れ、一晩かけて書き上げたかのように見せかけたと説明しているという。また音楽の英才教育は受けておらず、創作ノートも新垣氏が作った曲を書き写したと説明したという。

 同局は取材過程で、佐村河内氏がカメラの前で曲のイメージや全体構成をすらすらと書いたことなどから「本人が作曲しているとスタッフが疑わなかった」という。聴力の問題も、医師の診断書や障害者手帳を確認しており、流ちょうに話すことも手話通訳者から「途中から耳が聞こえなくなった人はこれくらい話せることもある」と言われ納得してしまったという。

 同局は「真摯(しんし)に受け止め、反省しなければならない」とした上で「チェックの精度を高め、研修会などでこの問題を取り上げ、再発の防止に取り組む」としている。