プロアスリートとして、どうしても許せなかった。試合終了直後。ピッチに倒れ込んでいた浦項の選手が、腕に巻いていたテーピングをピッチに投げ捨てた。サポーターにあいさつをするため、ピッチ中央で整列しようとしていた浦和GK西川周作(29)は、その行為にすぐ気づいた。

 浦項の他の選手が拾ったものを、主将DFキム・グアンソクがわざわざもう一度、芝の上に投げた。これを見た西川は、弾かれたような勢いでテーピングを拾いに走り、相手選手に握らせようとした。これに激高した浦項の選手が詰め寄り、あっという間に乱闘寸前のもみ合いになった。

 「一度拾ったものを、韓国の選手がまた捨てたので、自分が拾って手渡ししようと思いました。持って帰るようにと、ジェスチャーしたんですけど…。怒ったように見えたかもしれませんけど、自分は冷静というか、ただごみを持ち帰ってほしかった」。

 苦しい試合のさなかでも、連戦の疲労がたまっていても、いつも笑顔で振る舞う。それは後ろ向きな姿をファンに見せるべきではないという、高いプロ意識ゆえのことだ。だからこの時も、プロとしてあるまじき行為を、黙認する訳にはいかなかった。

 「サポーターのみなさんの中には、子どもたちもいる。絶対に見習ってほしくない。2人の娘の親としても、そこは強く思います。いい選手ほど、ああいうことはしない。勝てなかった悔しさは分かるけど、気持ちは抑えてやってほしかったというのはあります」。

 チームメートに範を示すべき主将が、こうした振る舞いをしたことも、同じサッカー選手として残念がった。

 「主将はチームをまとめるべき選手。そういう選手が、ああいうことをしてしまえば、チームはうまくいかないと思う。それは基本的なところ。あんな行為は、日本ではまずないし、海外の試合でも見たことがない。フェアプレー精神がない選手は、絶対に上にはいけない」。

 アジアの頂点を争う大会で、このようなことが行われれば、アジアサッカーのレベルもそれまでということにもなってしまう。埼玉スタジアムのピッチが汚されたという怒りもあるが、それ以上に同じアジアサッカーの一員として、どうしても意識をあらためてほしかった。

 残念な行為でおとしめられた、アジアチャンピオンズリーグの価値は、試合内容で取り返すしかない。この日の結果で、決勝トーナメント1回戦では、F組首位のFCソウルと当たることが決まった。Kリーグでも首位を独走し、アジア最大の難敵と目されるが、西川はこれを歓迎した。

 「すごくいいチームなので、必ずいい試合になると思う。広島で一緒だった(高萩)洋次郎と戦えるのも楽しみ」。アジアの強豪同士で、子どもたちに胸を張れる試合をする。その上で勝利という結果を出し「フェアプレー精神を持ってこそ上に行ける」と実証してみせる。【塩畑大輔】