今季限りで浦和を退団する日本代表DF田中マルクス闘莉王(28)が来季、名古屋へ移籍することが決定的となった。11日、名古屋市内で名古屋側との初交渉に臨んだ。同席したストイコビッチ監督(44)から主力としての高い評価と獲得への熱意を伝えられ、クラブ側から今季の推定年俸1億2000万円に匹敵する複数年契約を提示された模様だ。有力視された中東など海外のクラブから好条件のオファーが届かず、来年6月開幕のW杯南アフリカ大会に向け、環境面でリスクの少ない国内でのプレーを選択することになった。

 闘莉王は、名古屋側の熱意に胸を打たれた。スーツに身を包んで臨んだ約1時間の会談。冒頭の約15分間、08年の就任以来、初めて選手との交渉の席についたストイコビッチ監督から「一緒に優勝を目指して戦おう」と、熱い言葉で誘われた。加入を想定した構想の説明にとどまらず、W杯経験者として、異国の日本で98年フランス大会に備えた際の苦労話などを真剣に聞いた。

 ストイコビッチ監督とは、闘莉王が広島に所属していたプロ1年目の01年7月14日(瑞穂陸)に延長VゴールのPKを決められて以来の対面。「ずばぬけてうまかった」と尊敬するスーパースターの言葉に「話をしてみると、やはりサッカーを知っている人。本当に必要としてくれているし、気持ちが伝わってきた。非常に評価してもらえてありがたいです」と感激した。

 12月1日に浦和の橋本社長と会談した際、「僕を必要としていると感じなかった」と、来季もフィンケ監督のもとで世代交代を進めていくクラブの戦力構想から外れていることを確認し、退団の意思を伝えた。「年齢的に最後のチャンスかもしれない。レベルアップするために考えたい」と、長年の夢だった海外挑戦の可能性を探ってきた。

 当初はUAEやカタールなど、オイルマネーを投じて選手を補強する中東のクラブへの移籍が有力視されていた。だが、11月下旬の金融危機「ドバイ・ショック」の影響もあり、本格交渉に発展することなく中東勢は撤退。オランダ1部トゥウェンテも年俸50万ユーロ(約6500万円)と条件的に厳しく、今週中にも交渉期限切れとなる。一方で、名古屋側はこの日、闘莉王の代理人を務める糀正勝氏とも接触。浦和の今季推定年俸1億2000万円に匹敵する複数年契約を打診した模様だ。

 6年間在籍した浦和に愛着があるだけに、ライバルの名古屋へ移籍するのは抵抗があったが、直接会談を終え「レッズとの別れはつらいけど、クビになったと思ってゼロから出発したい」と覚悟を決めた。「名古屋はビッククラブと言われてもおかしくない。(ストイコビッチ監督の言う)優勝もオレの目標。まだ1回もタイトルを取れていないのも、僕にとっては(チャレンジの面で)おもしろい」と新たな目標も見えた。

 闘莉王は13日、郷里のブラジルへ帰る。「両親と相談して決めたい」と、W杯イヤーで好スタートを切るため、年内にも名古屋移籍を決断するつもりだ。