<J1:浦和3-0川崎F>◇第7節◇18日◇埼玉

 強い悪魔が、ついに戻ってきた。浦和が強豪に圧勝し、09年5月5日の昨季第10節・柏戦以来、約1年ぶりに首位の座へ返り咲いた。W杯最終メンバー入りを狙うFW田中達也(27)が、攻守両面で奮闘。前半8分に今季2ゴール目の弾丸ミドルシュートを決めて勢いづかせれば、GK山岸ら守備陣もJ屈指の攻撃力を誇る相手に体を張って完封。J公式戦ホーム通算1000万人突破の地元サポーターを、歓喜へ導いた。

 走りだした自分の背中を、だれかが押してくれた気がした。先制点からわずか1分後の前半8分、田中は仕掛けた。FWエジミウソンとのワンツーパスで相手DF陣を抜き去り、ドリブルで一気に加速。シュートコースをこじ開け「チームの状態がいい。僕のことを後押ししてくれた」と思い切り左足を振り抜いた。約25メートルの弾丸ミドル。「ボールに勢いがあった」という日本代表GK川島の右手をかすめ、左隅へ突き刺した。

 持病の腰痛やひざの故障に苦しみ、無得点で終えた昨季とは違う。3月14日の第2節東京戦以降、リーグ戦5試合連続の先発出場で今季2ゴール目。2トップの一角として相手DFの裏へ何度も走り込んでチャンスをつくれば、守備時には左サイドに駆け戻って前線からプレスを仕掛け、相手の突破を遅らせる。後半26分に両足がつって交代するほど、攻守で力を出し切る「マルチFW」が、浦和の4連勝の原動力だった。

 「今年はフィンケ監督のサッカーを体現したい」と田中は言う。ボール保持率を高め、試合を支配するパスサッカー。昨季から浦和が取り組む新たなスタイルは、6月開幕のW杯に臨む岡田ジャパンにも通じると信じている。故障防止のため、ナビスコ杯2試合でベンチ登録しなかったフィンケ監督の配慮に「監督が気を使ってくれるのはうれしいし、その分、ピッチでいい仕事をしたい」という。

 5月中旬のW杯メンバー発表まで残されたアピールの場は少ない。それでも、欧州行脚中の岡田代表監督に代わって直接視察した日本協会の原技術委員長は「この前よりも状態がよくなっている。選手選考は監督とコーチ陣に任せているが、現場が悩むような活躍をしてくれれば」と有力候補として期待した。

 好調な田中にけん引されるように上位をキープしてきた浦和だが、これまではC大阪や湘南のJ1復帰勢など戦力的に浦和が優位に立つ相手が多かった。前半7分に先制点を決めた細貝が「結果が必要だけれど、内容も問われる」というように、全員が「真価の問われる一戦」ととらえて集中。阿部や柏木が相手のパスコースに体を投げ出せば、坪井、山田暢のセンターバックも鋭い出足と跳躍でロングボールをはね返した。

 92年のJ創設期から、本拠地での公式戦来場者は通算1000万人を超え、J1通算150勝目での首位奪取。フィンケ監督は「正しい道を歩んでいることを証明した試合だった」と自信を深めた。06年にJ王者となり、翌年にアジアを制した赤い悪魔が、完全復活を印象づけた。【山下健二郎】