<J1:広島4-1C大阪>◇第33節◇24日◇広島ビ

 20年目のJリーグで広島が悲願の年間王者に輝いた。本拠最終戦はC大阪に圧勝し、2位仙台が新潟に敗れたために最終節を待たずに決定。94年第1ステージの優勝はあったが年間優勝は初めて。この日も1ゴールで得点王が確実のFW佐藤寿人(30)を中心に、クラブ初の生え抜き指揮官となった森保一監督(44)が就任1年目で偉業を達成し、雨の中で男泣きした。優勝賞金は2億円。12月6日開幕のクラブW杯にも開催国代表として出場が決定した。

 全身の力が抜けるようにしゃがみ込んだ。広島の勝利から10秒後だった。仙台の敗戦を確認すると、エースで主将の佐藤は念願の優勝を1人でかみしめた。チームも自身も初となる年間王者に輝いた。雨の広島ビッグアーチで男泣きした。

 「うれしすぎて。苦しい時期もあった。跳びはねたりすると思っていたけど、座り込むことしかできなかった」。約18年ぶりに3万人以上の観衆を本拠地に集めて日本一になった。その喜びは今季達成したJ1通算100得点、9年連続2ケタ得点を上回るものだった。

 優勝へ向けて最高の展開だった。2点先制後の前半42分、PKのチャンスをもらう。試合を決める3点目は、初の得点王をほぼ確実にするを22点目となった。この日は長男玲央人くんの9歳の誕生日だった。家族のいる座席方向へ大きな輪をつくった。「子供へのパフォーマンスだった。いつも応援してくれている」と父親の表情を見せた。

 自身の得点より喜んだのは前半20分の2点目だ。中央にいた佐藤はMF清水へパスを出す。今度は右サイドに構えるMF石川がヘッドで落とし、MF青山が得点した場面だ。「今年一番成長した2人(清水、石川)が存在感を見せた」と言った。

 柏木、槙野、李ら主力が毎年のように抜けた。優勝するには全体の底上げしかなかった。「若手の成長がなければ、広島の優勝争いはない」と危機感をあおってきた。森保監督、青山、森崎兄弟らとも話し合いを重ねて、若手の居残り練習には積極的に付き合った。育成型クラブとして現有戦力の成長を手助けした。

 生まれは埼玉で広島とは縁がなかった。市原やC大阪では芽が出なかった。しかし移籍8年目を迎え、広島愛は誰にも負けない。「ユニホームに星をつける」「森保監督を男にする」。2つの思いを胸に今年に懸けた。「もっといいチームになれる。今以上に強くならないといけない」。

 9月15日から首位の座は1度も明け渡さなかった。1度も連敗はなく、混戦を勝ち抜いた。この優勝で日本開催の憧れのクラブW杯の出場権を得た。広島の誇る攻撃的なサッカーを世界に広める絶好のチャンス。広島は、まだまだ強くなれる。佐藤はそう踏んでいる。【中牟田康】

 ◆佐藤寿人

 さとう・ひさと。1982年(昭57)3月12日、埼玉県生まれ。市原、C大阪、仙台を経て05年広島移籍。日本代表は31試合4得点。170センチ、67キロ。千葉MF勇人は双子の兄。