<J1:大分0-2大宮>◇第9節◇3日◇大銀ド

 大宮が最下位大分に快勝し、6連勝で首位をキープした。J1記録の連続負けなしを20試合に更新した。大宮GK北野貴之(30)は、新潟所属時のサポーターで05年5月3日に8歳で他界した川口万輝(かずき)くんへ完封勝利をささげた。

 終了の笛が響くと、北野は晴れ渡った空を見上げ、両手で天を指さした。命日に見守っているであろう、川口万輝くんへ完封勝利を報告した。「相手は泥くさく攻めて来ていたし、うまく対処できた」と納得の表情を見せた。前半19分には機敏な飛び出しでピンチを未然に防ぐなど、3戦連続完封に一役買った。

 新潟に所属していた04年、練習を見に来ていた万輝くんと知り合った。心臓に重い病気を抱え、試合を観戦できるほどの体力はなかったが「治ったら絶対に試合を見に行くから」と約束していた。病院には何度も見舞いに行った。試合観戦を希望に、度重なる手術に耐えたことも知っている。05年5月3日の朝、万輝くんの両親から連絡を受けた。「病院に来てほしい」。練習前に駆けつけた。厳しい状況であることは一目で分かった。「練習が終わったらまた来るから。でも自分の運命は自分で決めていいんだからな」。手を動かし、うっすらと目が開いた。腕には点滴の痕で多くのアザがあり、それ以上頑張れとは言えなかった。

 練習時間中に息を引き取ったというメールが届いていた。練習後、自宅に駆けつけ無言の万輝くんと対面した。北野のレプリカユニホームをまとう姿に、声を上げて泣いた。

 別れから8年たった今も北野は、時間の許す限りファンにサインを続け、会話する。少年との出会いが自分の人生を変えたように、自分との出会いで人生が変わる人がいるかもしれない。「健康な体でサッカーをやれることがどれだけありがたいことか」。万輝くんが左利きだったことから、左のグローブとシューズには名前を刺しゅうしている。

 完勝での首位キープにも冷静だった。「まだまだ。30節を超えても首位だったら、何か面白いことが言えるかもしれない」。万輝くんとの絆を胸に、北野は大宮ゴールを守り続ける。【高橋悟史】