[ 2014年2月5日9時5分

 紙面から ]公式練習で華麗に舞う羽生(撮影・井上学)

 あこがれ封印で金メダルを-。フィギュアスケートの男子シングルで金メダルの期待がかかる羽生結弦(19=ANA)が3日(日本時間4日)、ソチに到着した。幼少期からあこがれる06年トリノ五輪金メダリストのエフゲニー・プルシェンコ(ロシア)と試合では初めて戦うことになるが、自分の演技、調整に集中。他選手を意識しすぎずに夢舞台に挑む。翌4日には練習リンクで練習を行い、2種類の4回転ジャンプを成功させた。

 カナダのトロントからドイツ経由でのソチ入り。長いフライト時間をへて疲労もあるだろう午後9時の夜の空港で、羽生の声がひときわ弾んだ。「すごいですね、びっくりです。本当にビックリの一言しかない」。反応した名前は「ロシアの皇帝」プルシェンコ。五輪で3つのメダルを獲得し、母国での祭典に4度目の出場を果たした。小さい頃は同じ髪形にしたほど尊敬してやまない存在。試合では初めて戦う。興奮しないはずがないが、続けた言葉は意外なものだった。

 羽生

 ま、僕は僕なんで、それ自体も楽しめるように一生懸命やりたい。あまりプルシェンコ選手が何か僕の演技に影響するかとか、そういうプログラムが変わるとかはないので…。

 ひとまずあこがれは脇に置き、自分自身に集中する。それが決意だった。

 苦い経験がある。同じように尊敬する世界選手権3連覇中のチャンを意識しすぎ、失敗が続いたのが今季序盤。2戦連続で対戦し、意識は完全にチャンしか向かず、自分を見失い完敗した。その失敗を糧にしたのが昨年12月のGPファイナル。「周りに流されず自分の演技ができればいい」と誓い、チャンに勝利して優勝。だからこそ、もう視線を他選手に置きすぎない。

 さっそく練習リンクで行われた4日の初練習でも自己流を貫いた。選手村からは輸送バスがあるが、飛行機移動後で「体が起きていないから」と“徒歩出勤”。キャリーバッグを持ちながら五輪公園を15分かけて移動した。午後6時前からの2度目の練習ではトーループを4回、サルコーを1回と4回転ジャンプをいきなり成功させたが、「いつも通り。こうやって積み上げて調子を上げていく」と6日のショートプログラム(SP)を滑ることが濃厚な団体戦へ、通常ペースを強調した。

 「何かにつまずくことがないように、1つ1つ階段を上がるように踏んでいく」。見つめるのは自分だけの階段。上り切った先には、きっと金メダルが待っている。【阿部健吾】