男子100メートルと200メートルの世界記録保持者、ウサイン・ボルト(28=ジャマイカ)が100メートルに9秒87の今季自己最高記録で優勝した。5月にジャスティン・ガトリン(33=米国)が出した9秒74の今季世界最高とは少し差があったが、ボルトは故障からの復帰初戦。気象条件的も悪コンディションだったことを考えると、来月の北京世界陸上への期待は大きくなった。

 フィニッシュ直後にタイマーの速報数値を見たボルトは、不満そうな表情と仕草を見せた。「9秒7台は難しくない」と前日の会見で話した数字に届かなかったからだ。

 6月のダイヤモンドリーグ・ニューヨーク大会を最後に、予定していたジャマイカ選手権とダイヤモンドリーグ2試合を、左脚付け根の痛みのため欠場してきたボルト。昨シーズンも故障で試合にはほとんど出なかったため、9秒8台は2013年9月以来1年10カ月ぶりになる。 この日は気温が15度と肌寒く、風も向かい風0・8メートルで記録は出しにくいコンディションだった。

 気を取り直したボルトは次のように話した。

「良くなっている。コーチも加速の切り換えが良かったと言ってくれた。予選では、今日やりたいと考えていたポイントはすべてできた」

 予選のタイムも決勝と同じ9秒87で、気温も同じ15度。向かい風は1・2メートルで決勝よりも強かった。残り30メートル付近で、隣のレーンのマイケル・ロジャース(30=米国)を突き放した。

 決勝はスタートで明らかに出遅れ、得意の後半でなんとかロジャースに競り勝ったが、2人のタイム差は予選の0・05秒から0・03秒に縮まった。

「決勝の走りは良くなかった。集中力を欠いてしまい、やろうとした動きができなかった。ただ、今日は特別なタイムを出したかったわけではないし、スタートが良くなればタイムも上がってくる」

 8月の北京世界陸上は100メートルで2連勝(3回目)、200メートルでは4連勝に挑む。ボルトが低迷している間に、ガトリンが両種目とも今季世界1位の記録を出すなど絶好調。“ボルト危うし”の雰囲気が支配的だったが、ボルトは五輪&世界陸上という大舞台で強い。北京世界陸上の勝負が面白くなってきた。

◆今季の男子100メートル

 ボルトのライバルたちが好記録を出している。

 ガトリンが5月に9秒74の今季世界最高を出しただけでなく、6~7月のダイヤモンドリーグ3試合で9秒7台と絶好調。北京世界陸上でも金メダル候補筆頭に挙げられていた。

 前世界記録保持者のアサファ・パウエル(32=ジャマイカ)は、ボルト不在ではあったが強豪ひしめくジャマイカ選手権を制し、9秒8台を5回もマーク。9秒69の世界歴代2位を持つタイソン・ゲイ(32=米国)は全米選手権を制し、9秒8台でも2回走っている。

 日本勢では、3月に追い風参考ながら9秒87を出した桐生祥秀(19=東洋大)が期待されていたが、現在は故障で試合から遠ざかっている。世界陸上にも出場しない。高瀬慧(26=富士通)が10秒09を5月にマーク。世界陸上の日本代表に入ったが、本番では200メートルでの決勝進出を一番の目標としている。