12年ロンドン五輪代表の山県亮太(23=セイコーホールディングス)が、日本歴代5位の10秒06をマークした。向かい風0・6メートルの1本目は10秒23で桐生祥秀(20=東洋大)に0秒02遅れて2着。向かい風0・5メートルの2本目で自己記録10秒07を4年ぶりに0秒01更新してトップでゴールした。向かい風の条件では日本最高タイムを出して9秒台が現実味を帯びてきた。桐生の2本目は10秒09だった。

 確信があった。山県は、50メートル付近で先行する桐生を見て「並べるか、差せる」。左右対称の美しいフォームで追って、80メートル過ぎで逆転してフィニッシュ。速報値の10秒08から繰り上がって正式タイムは10秒06。「僕は速報値より速くなることはあまりない。06だ! と思った」と喜びを口にした。

 今季日本最高で4年ぶりに自己記録を0秒01更新。日本歴代5位の好タイムでライバル桐生に0秒03先着した。向かい風の日本最高タイムで、追い風2・0メートルならば十分に9秒台が視野に入る。「風は運が悪かったとしかいいようがない。でも向かい風で0台は初めて。9秒台が現実味を帯びてきた」と力強く言った。

 後半でもスピードが落ちない、肘を直角に曲げたフォーム。その基礎は小学校時代に培われた。当時の「脇の下で大根を切るように、肘を動かせ」という教えを胸に刻む。広島・修道高卒業まで毎日、自宅の鏡の前で腕振りを反復した。いまでもふとした時に腕を振る。乱れないフォームが後半の強さを生んでいる。

 周囲の支えもあった。腰痛に悩まされた昨年8月。個人コーチとして、慶大陸上部の先輩、古賀友矩(とものり)氏(26)の指導を受けるようになった。競泳リオ五輪代表の古賀淳也を兄に持つ古賀氏は、練習メニューに競泳の手法を取り入れた。「12分のレスト(休憩時間)を2、3分短縮した。本数を走った後も後半に足を動かし続けられるように」。疲れたまま走ることで、自然と体にとって楽なフォームになる。後半に強い特長をさらに磨いた。

 日本で10秒0台を4度記録したのは、伊東浩司、朝原宣治、桐生、山県の4人だけ。桐生とはこの日の1勝1敗を含め、今季2勝1敗となった。リオ代表が決まる日本選手権(6月24~26日、愛知・瑞穂)も激戦必至だ。「桐生は着実に調子を上げてきている。気を引き締めていかないと勝てない。2人ともグレードアップしている」。2人のライバル対決が、日本初の9秒台への呼び水になる。【益田一弘】

 ◆山県亮太(やまがた・りょうた)1992年(平4)6月10日、広島市生まれ。広島修道高卒。慶大1年時の11年国体男子100メートルで10秒23の日本ジュニア記録(当時)樹立。12年ロンドン五輪は予選10秒07で準決勝進出。13年に10秒11で日本選手権初制覇。177センチ、68キロ。

 ◆男子100メートルの代表争い 最大3枠。日本陸連の派遣設定記録(10秒01)突破者はなし。参加標準記録(10秒16)は高瀬、桐生、ケンブリッジ、山県の4人が突破しており、最終選考会となる日本選手権(今月24~26日、愛知)で優勝すれば内定。残りは同選手権後の選考に委ねられる。高瀬は五輪で200メートルに専念する考えを示している。