男子平泳ぎで五輪2大会連続2冠の王者、北島康介(28=日本コカ・コーラ)が、100メートルで完敗した。北京五輪2位の宿敵アレクサンダー・ダーレオーエン(26=ノルウェー)に前半から引き離され、1分0秒03のタイムで4位。金メダルなら来年のロンドン五輪出場が決まったが、同種目では01年大会以来10年ぶりに世界大会でメダルを逃した。優勝したダーレオーエンに1秒32もの大差をつけられ北島は「泳ぎを振り返る余裕がない」とショックを受けた。

 世界王者のプライドは、ズタズタにされた。北島は反応よく、スタートでダーレオーエンより先に飛び込んだ。しかし、50メートルの折り返しで0・96秒離されると、後半は巻き返すどころか、逆にリードを広げられる。必死に水をかき、追いすがった。

 しかし、最後は1秒32という大差をつけられ、4位という完敗。しかも同種目で世界大会でメダルを逃したのは01年福岡大会以来10年ぶり。ぼう然とした表情、重い足取りで引き揚げてきた北島の姿にショックの大きさが見て取れた。

 北島

 まだ振り返る余裕がない。焦ってたと言えば、焦ってたのかもしれないし、後半泳ぎが小さくなってたね、たぶん。力を出せなかったのは何か原因がある。本来持ってる力すら、出させてくれなかったから、それは悔しいよね。(ダーレオーエンは)まったく別なところで勝負してるよ。たぶん僕すら相手にしてないだろうしね。まあ完敗ですよ。表彰台にも上れないなんて、情けない。

 いつも自信に満ちあふれた男の姿はどこにもない。止めどなく口を突くのは、どれもネガティブな言葉ばかり。脱帽というより、ショックの方が大きかった。予選、準決勝と尻上がりにタイムを上げ、決勝で逆転をかけるのが北島の金メダル方式。しかし、決勝のタイムは3本目にして初めて1分をオーバーした。準決勝のレース後、「合わない」と漏らしたストロークとキックのズレ。少ないストロークで大きく伸びる本来の泳ぎは、どこにも見えず「思い描いたストーリーとはまったく違った。久しぶりだよ」。大一番で不安が的中してしまった。

 そんな姿に平井伯昌ヘッドコーチは、「愛のむち」を入れた。4月の代表選考会で左内転筋を肉離れし、追い込み時期に練習ができなかった影響を指摘しながらも「体から発するパワーを感じなかった。力負け。その場で合わせる泳ぎじゃない。根本からしっかりつくらないと。もう王者として五輪には臨めない。プライドを持って、準備しないといけない」と言い切った。

 対照的にダーレオーエンの強さは際立った。190センチ、84キロの大柄で上半身のパワーを生かした力強いストロークで、ひとかきで大きく前へ進む泳ぎは、ダイナミックそのもの。前半の50メートルを27秒20で入ったダーレオーエンの「突っ込み」に触れ、平井ヘッドは「新たな次元の記録に入った」と感嘆の声を上げた。北島自身もレース直後「(自分は)弱いっすね。今のままじゃ、かなわない」と本音を漏らしていた。

 来年のロンドン五輪に向け、またまた大きな壁が北島の前に立ちはだかった。「これを機に強くなりたい。こんな世界選手権もあった方が、来年につながると思う」。逆転には何が必要なのか-。そんな問いかけに「考えます、これから。58秒5でしょ。58秒5出さないと勝てない」。そう自分に言い聞かせるように、ぐっと言葉を胸にしまい込んだ。【佐藤隆志】(2011年7月26日付紙面より)