日本マラソン界のホープ・中尾勇生(25=トヨタ紡織)が、「心の恩師」との初対決を糧に世界舞台へ挑戦する。8月の世界選手権(ベルリン)選考レースの東京マラソン(22日)に出場する招待選手の記者会見が20日、都内のホテルで行われた。3度目のマラソンに臨む中尾は、引退レースになる日本記録保持者・高岡寿成(38=カネボウ)からすべてを吸収する姿勢を示した。日本人トップなら世界選手権代表に内定するレースで、世代交代をアピールする。

 「高岡引退」。そんなニュースが飛び込んだのは、4日前だった。

 中尾

 聞いたときは正直、びっくりしました。一緒に走っていろいろ感じる部分はあると思う。日本のマラソン界を引っ張ってきた方なので、すべて吸収して、自分の経験に生かしていきたいです。

 最初で最後の対決は、恩返しの場になる。無名だった帝京大1年の時、高岡が所属するカネボウの山口・湯田温泉合宿に1週間、参加した。最終日に、雲の上の高岡から呼び止められた。怒られるのかな、と構えたところ「どんな選手でも、苦しまないと強くなれない。苦しめば、強くなれるよ」と激励された。感激のあまり、何も言い返せなかったという。

 あれから、7年。戦える選手に成長した。初マラソンの07年9月の北海道は、練習不足で2時間23分29秒の12位。08年3月のびわ湖毎日は、5キロ付近でマメができて惨敗した。市民ランナーにも抜かれ、2時間38分16秒の124位だった。だが、そこから順調に階段を上ってきた。

 昨年5月の仙台ハーフマラソンで2位に入り、6月の日本選手権では1万メートル28分10秒19の自己ベストを記録した。10月の世界ハーフマラソン選手権では、5位に食い込んだ。地力はついたが「僕はマラソンの持ちタイムがずばぬけて遅いので、しっかりした結果を残したい」と謙虚に話した。

 父は日本人で初めて2時間20分を切り、4回も日本記録を更新した隆行さん(70=中京大教授)。2日前、愛知県の実家に戻った時「何も考えるなよ」と一言だけアドバイスされた。「トップとかを意識しすぎず、リラックスしろということだと思います」と中尾。当日は両親が観戦に訪れる予定だ。

 「タイムは意識していません。日本人トップを意識して、経験がないので、積極的なレースをしたい」。高岡が最後と決めたレースで、新星が誕生する-。そんなストーリーを描けるかどうか、中尾の挑戦がもうすぐ始まる。【佐々木一郎】