日本女子陸上短距離のエース福島千里(21=北海道ハイテクAC)が、恩師不在を遠隔操作で乗り越える。指導する中村宏之監督(64)が、8月の世界選手権(ドイツ・ベルリン)に帯同しないことが、13日までに決まった。初の“独り舞台”になるが、携帯電話の画像などを活用しフォームをチェックしてもらいながら本番に備える。

 日本女子56年ぶりの100メートル出場となった昨年の北京五輪には、技術、精神両面でのサポート役として中村監督が帯同した。しかし今回について、同監督は「私はベルリンには行きません。練習映像を逐一送ってもらい、指示を出していく予定です」と明言した。同行する陸連スタッフに依頼し、練習時の姿を動画ムービー等に取り込み、同監督が確認して修正点を返信するというスタイルで臨む。

 中村監督は北海道ハイテクACのほか、恵庭北高の陸上部も指導しているため、7月29日からの全校高校総体(奈良)に帯同しなければならない。8月22、23日には国体道予選も控える。そのための決断ではあるが、福島にさらに大きくなってほしいという思いの表れでもある。「ベタベタつくのは必要ない。ロンドン五輪は絶対行くが、それまでにタフさをつける必要もある」。12年に控える五輪へ向け、心の強さを身に着けてほしいがゆえの、“独り立ち”の機会にする。

 この日、所属先の屋内施設で公開練習を行った福島は、恩師の言葉を前向きに受け止めた。「寂しいですけど仕方がない。でも、監督がいなかったからいいレースができなかったと思われたくない」。さらに上の段階へと進むためにも、結果を貪欲(どんよく)に求めていく。【永野高輔】