あの演技を無駄にしない-。フィギュアスケートのソチ五輪金メダリスト羽生結弦(19=ANA)が、今日28日に行われるグランプリ(GP)シリーズ第6戦NHK杯(大阪・なみはやドーム)のショートプログラム(SP)に出場する。同3戦中国杯のフリー直前の練習で負傷してから2週間あまり。27日の会見で死と隣り合わせの競技のリスクを認めながら、勝るのは今大会3位以上で出場権を得るGPファイナル(12月、スペイン)出場への意思。中国での滑りを先につなげるために、万全ではない状態での最善を尽くす。

 「滑ることに恐怖はないのか?」。羽生はこう聞かれると、迷うことなく「ないです」と言い切った。壮絶なアクシデントを経験しながら、気持ちは折れていなかった。

 8日に負傷後、初めて言葉を発した公式記者会見。素直に、衝突の危険性を口にした。

 羽生

 実際にスポーツは自分たちの限界に挑んでいるわけで、ある意味では死と隣り合わせ。この間衝突した事故は、本当に1秒も満たない時間の差があったら、僕はいなくなっていたかもしれない。

 はっきりと「死」を意識させられた。負傷しながら、強行出場したことにリスクがあったことも分かる。ただ、GPシリーズ上位6人で争うファイナルに出たい意志は固かった。「あれは無謀と、コーチ、連盟の方を批判することもあると思いますが、僕の意思を尊重してくれたことに感謝している」と理解を求めた。

 体調は万全には程遠い。9日に中国から帰国後、治療のために10日間は練習をできなかった。「痛くて寝られなかったり、歩くのが大変だったときもあった」という。いわゆる「モモカン」と診断された左太ももの打撲は初めての症状で、筋肉が硬くなって思うように動かせなかった。地元仙台で滑ったのは5回だけだった。

 26日に会場で行われた非公式練習では、4回転ジャンプが好調で出場を決意したが、この日は一変していた。40分間の練習で跳んだ4回転は12回。成功はわずか2回のみ。2回の転倒があり、その他は回転が足りなかった。「体力もしっかり落ちてしまっている」と自覚し不安はぬぐえない。

 「皆さんに申し訳ないですが、ファイナルに行きたい思いが強い」。SPでは体力的にきつい後半の4回転を前半に、フリーでは後半の4回転ジャンプを回避する。ともに構成を下げてファンの前で滑ることにじくじたる思いはある。ただ、今大会の3位以上で地力出場が決まるファイナルにつなげることが最優先だ。

 「その時(中国杯の)演技を無駄にしたくなかった」。周りの人々が中国で意思を尊重してくれた故に、批判にさらされた。だからこそ、今大会で滑ることに意義があると信じる。結果はハッピーエンドではないかもしれない。それでも滑りきる。「今できる最高の演技をしたい」。滑走時間は今日、午後8時25分-。【阿部健吾】

 ◆羽生のGPファイナル進出条件

 3位以上で進出が決まる。羽生は中国杯2位で13点。現在のGPファイナル進出ラインの6位は20点。3位(11点)になれば合計24点で上位6人に入る。表彰台を外した場合は、今大会に出場する無良(15点)ボロノフ(13点)アボット(7点)の結果次第になる。6位(5点)以下では進出できない。