CSを順当に突破して「ソフトバンク対広島」の日本シリーズになれば、初顔合わせのシリーズとなる。両チームともに伝統球団だが、強かった時代が異なっており、ここまで1度も大舞台で対戦することがなかった。

 とはいえ、広島はホークスにとっては何とも因縁深い相手だ。常勝チームに成長した現在のホークスは、広島を「お手本」にスタートしたのだ。王会長が監督に就任した95年。王政権の「第1次内閣」はカープ出身者を登用した。寺岡孝ヘッドコーチ(故人)、達川光男バッテリーコーチ、高橋慶彦打撃・走塁コーチの3人を招へいした。現役時代から広島のスキのない野球を見てきた王さんは、打撃力を中心としながらも広島型の野球を標ぼうした。巨人出身者は誰ひとり呼ぶことなく新天地での新たな「王野球」を目指したわけだ。

 「ワシが現役の時、ブルペンで若い投手にアドバイスしている姿を評論家時代の王さんが見ていて、それで、『ああいう指導をしてほしい』と王さんから直接連絡があったんよ」。23年前、バッテリーコーチに呼ばれたときの話を達川ヘッドコーチは教えてくれた。「だから、感慨深いもんがあるわ。広島と対決できたらな」。もちろん、達川ヘッドコーチは広島での監督経験もあるだけに、思い入れは誰よりも強い。

 資金力には大きな差があるが、ともに「育成」のチームを自負している。達川ヘッドはこんな言葉も教えてくれた。

 「『力耕(りきこう)吾(われ)を欺(あざむ)かず』。これが広島カープの精神じゃけえ」。一生懸命耕した田畑の実りは自分を欺かない-、という意味である。力耕しなくても、ホークスは大きな「作物」をどんどん買い付けるからなあ。【ソフトバンク担当 佐竹英治】