真っすぐに伸びる背筋を見て、グングン育ってきた。オリックスのエース山本由伸投手(23)は、高卒プロ2年目の18年、主に8回を任される勝ちパターンの救援投手だった。そのときに守護神を任されていたのが増井浩俊投手(37)。14歳上のベテラン右腕から、当時19、20歳だった山本は、プロ野球選手としての生き方を学んだという。

「増井さんは本当にすごい。打たれても、抑えても、毎日なにも変わらないんです」

パッと足を止め、目を輝かせながら山本は続ける。

「僕、すごく気になったんで、あるとき聞いてみたんです。『増井さんって打たれても全然、悔しくないんですか? 』って。そしたら『そりゃ、打たれたら悔しいよ。でも、それで怒ったり、落ち込んだりしていたら、この世界でやっていけないよ』と」

プロ通算550試合登板で41勝、163セーブ、158ホールドを記録する右腕の言葉が胸に刻まれた。

「人間の強さというか…。この人、さすがだなと。そのとき、僕は1軍に入ったばかり。それでも優しく野球を教えてくれたり、一緒にゲームをしてくれたり…。増井さんの人間性に、ほれましたね」

そんな言葉を山本から聞いていただけに、増井が「12球団勝利」を狙った8日ヤクルト戦(京セラドーム大阪)の、最後の1球が身に染みた。

5回2死二、三塁。1-2と1点リードを許した状況で、カウント2-2から3番山田に、渾身(こんしん)の151キロ直球を投じ、空振り三振を奪う。捕手伏見はミットを掲げて喜んだが、増井は淡々と一塁側ベンチに戻った。胸中、穏やかではないはずの89球目-。拳さえ握らなかった。

「本当にいつも通りで、すごいんですよ…」

短いフレーズが脳裏をよぎると、鳥肌が立った。【オリックス担当 真柴健】