<DeNA4-2阪神>◇29日◇横浜

150キロには満たない。それでも、セ首位打者が振り遅れるほどの直球に目を奪われた。29日のDeNA戦(横浜)。8回から登板した阪神石井大智投手(24)が、2死フルカウントから佐野に投じた148キロ直球のことだ。

「150キロ、あんまり超えてないですよね?」。2月の沖縄・宜野座キャンプ。実戦を重ねていた石井に、そう問いかけたことがある。1年前、ルーキーイヤーで1軍キャンプに抜てきされた時は、紅白戦から150キロ超を連発。そのイメージがあったから、調整期間とはいえ140キロ台半ばにとどまっていた直球が気になった。

「今はもう、球速は求めてないんです。理想は秋山さんや岩崎さん。分かっていても、打者が差し込まれるようなストレートです」

答えは明確だった。スピードより質。プロで長く生き抜いてきた先輩たちを近くで見てきたからこそ、思考を切り替えられていた。チーム屈指の筋トレ好き。鍛え上げた肉体の成果を反映させるのは、いつしかスピードガンではなくなっていた。

佐野の直前には、前日に代打で同点2点打を放っている桑原を空振り三振に仕留めていた。捕手梅野に高めの「つり球」を要求され、そこに146キロを投げ込んだ。佐野には低めから伸びてくるような直球。いずれも150キロは超えていない。圧倒されたような打者の反応で、数字以上の威力があることが分かった。

前夜に1回1/3を無失点。イニングまたぎの翌日の登板で対したのは、1番から始まる好打順だった。当たり前のように3者凡退でゼロを並べたが、簡単ではないシチュエーションだったはずだ。これで12試合連続無失点。防御率は1・08まで下がった。場面問わず仕事を果たす男の存在感は、日に日に高まっている。【阪神担当 中野椋】