さまざまな元球児の高校時代に迫る連載「追憶シリーズ」。第18弾は谷繁元信氏(46)が登場します。

 高校受験、コンバート、甲子園での完敗、センバツ落選など……決して順風満帆な高校時代ではありませんでした。ただ、どんな場面でも谷繁氏は、気持ちを切り替え、前へ進んでいます。その考え方が、プロで27年間も一線で活躍できた原点になっています。

 プロでは、捕手として3人目となる通算2000安打を達成し、さらには通算3021試合出場というプロ野球記録も打ち立てました。

 球史に残る名捕手が、どんな高校生活を送っていたか。全12回でお送りします。

 9月20日から10月1日の日刊スポーツ紙面でお楽しみください。

 ニッカン・コムでは、連載を担当した記者の「取材後記」を掲載します。

取材後記

 元球児は、寮生活の厳しい思い出を雄弁に語ってくれます。試合の話より盛り上がります。

 早朝から深夜に及ぶ先輩の世話や洗濯などの雑用。少ない睡眠時間。数十年前といえば、上級生から殴られる機会もあったでしょう。

 それでも、自分の息子が高校生になると寮生活を勧める人が多いようです。

 谷繁元信氏(46)も、野球をやる息子たちに寮生活を勧めました。

 「レギュラーになれずとも、ベンチ入りメンバーに入れずとも、とにかく続けなさい。大変なことがあっても続けなさいと言ってきました」

 彼は若い頃「継続は疲労なり!」と言ってはばからなかったそうです。しかし、愛息たちには本来の使い方として「継続は力なり」と教え込んでいます。


 今回取材に協力してもらったチームメートの藪野良徳さんも、同じことを言っていました。

 自身の寮生活がいかに厳しかったかを語った後、球児だった息子に寮生活を勧めたと教えてくれました。

 「私たちも最初はケンカばかりでした。いろんな地域からゴンタ(意地っ張り)な子が集まっているからね。でも、寮で生活していくうちに、自分のことばかり言っても生きていけないと気付くんです。我慢もあるし、人の言うことを考えたり… 勉強とは違う、社会を学んだと思っています」

 「イヤな思い、しんどい思いをしながら、人間的に成長できるんです。高校生活は3年間、野球をやっているのって2年半と短いでしょう。寮で仲間といろんな思いを共有する。そういう経験は、息子にもやらせたかったんです」

 藪野さんは今、会社を経営しています。社会の荒波にもまれながら、あらためて高校時代がいかに貴重な経験だったかを感じているようです。


 年齢を重ねてから、初めて価値に気付くこともあります。高校時代の思い出は、何とも奥深いものです。【飯島智則】