<セCSファイナルステージ:広島6-1巨人>◇第1戦◇17日◇マツダスタジアム

虎党には寂しい秋だ。だが球界は熱い。日本シリーズ進出へ向け、広島と巨人のセ頂上決戦が始まった。真剣勝負に最下位・阪神が学ぶことは多くある。コラム「執念で挑め」で18年の阪神を追った編集委員・高原寿夫がCSファイナルに密着。「猛虎再生」へのヒントを探る。

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たいしたもんだ。この大事な試合で普段以上の好投。広島大瀬良大地。こういう投手が欲しいぞ。阪神にも。えてして、こういうゲーム、エースは失敗したりするのだが大瀬良は堂々と投げた。

「少し大人になったのかなと思いますね」。今年8月のこと。京セラドーム大阪で会った広島監督・緒方孝市が大瀬良についてそんなことを言った。それを思い出した。

8月11日広島-巨人戦(マツダスタジアム)。この試合、大瀬良は7回まで巨人打線を無失点に抑えた。味方打線は巨人菅野智之から2点を挙げ2-0でリード。緒方は8回から継投策を考えた。だが大瀬良は続投を志願する。

その時点で菅野が投げており、先にマウンドを降りたくないという意地だろう。「それならいけ」。緒方は認めた。しかし8回に1点を奪われ、降板。試合も追いつかれて、結局、延長12回引き分けに終わった。そして翌12日の同戦、広島は今季初めて本拠地で巨人に負けた。

「あれで流れがそうなったんですね。大瀬良を続投させたのはボクのミス。でもね。いいこともあったんですよ」。緒方はそんな話をした。志願の続投で結果を出せなかった大瀬良は翌12日に監督室を訪ねてきたという。

「続投させてもらったのに抑えられなくて申し訳ありませんでした」。そう言って頭を下げた。大瀬良もその件について「あれは申し訳なかったので…」と明かした。

「大人になったな」というセリフはその行為を示すものだ。監督就任以来、緒方がエース候補の大瀬良に心血を注いだ点が、プロの厳しさを伝えるということだった。

いい例が17年8月16日の阪神-広島戦だ。この試合、制球難に苦しむ藤浪晋太郎が大瀬良に死球を与えた。そのとき大瀬良は騒然とするムードの中で「大丈夫、大丈夫」と手を振って笑顔を見せた。

若いファンには「神対応」と好評だったこの行為。しかし緒方には厳しさが足りないと映った。「いい人はグラウンドの外でやってくれ」。緒方は監督室に大瀬良を呼び、注意した。その厳しい姿勢がここに来て、実を結んでいるのかもしれない。

厳しさ。そして指揮官との信頼感。それは今季限りで阪神監督を辞任した金本知憲がエース候補・藤浪を始め、若い選手との間に醸し出したかったものだ。それが成功している広島と、現時点ではそうとは言えない阪神。来季、そこがどうなるか。監督が代わり、オーナー以下の体制が代わっても、このムードが生まれなければ強くはなれない。そう思う。(敬称略)