中学生のころ、小説を読んで大笑いした最初の記憶があります。「決戦・日本シリーズ」(74年)という作品に触れたときでした。

作家かんべむさしさんのデビューを飾った同作は阪神タイガースと阪急ブレーブスが日本シリーズで激突、関西球団同士、さらに電鉄会社同士の因縁対決から巻き起こるドタバタ劇を描いた内容です。

それから40年近くが経過した現在。両球団の状況は大きく変わっています。阪急は88年にオリックスに球団を譲渡し、球界から去りました。しかし06年に阪急と阪神は経営を統合。阪急は現状、タイガースの経営にタッチしていませんがグループ会社になっているのは知られるところです。

空想小説を描いた作者も思い描かなかったであろう状況になっているのはなんとも奇妙な気がしますが、当時から今に至るまで変わらないのは、阪神と、ブレーブスの流れをくむオリックスとの間での日本シリーズがいまだに行われていないということです。

笑ったのは作品中、シリーズ第5戦に勝利した阪神のファンが「虎は狸(タヌキ)の母さんよ」という不思議な歌を合唱しているというフレーズを読んだときでした。

「捕らぬ狸の皮算用」という言葉をもじったものでしょうが、物語のムードにぴったりハマる意味不明な響きがおかしかったし、おそらくこの対決は実現しないだろうというようなメッセージも勝手に感じて、笑ったものです。

阪神とオリックスが首位を走る今季のプロ野球。「関西対決」ということではご存じの通り、前回の東京五輪が行われた64年、阪神と南海の対決でした。

それから57年。やはり東京五輪が行われた年に関西対決となれば、歴史の不思議さを感じるしかありませんし、どんな盛り上がり方をするのだろうと期待もしてしまいます。

「そうなったら、おもろいでえ」と後半戦開始を前に、それこそ「捕らぬ狸の皮算用」で考えています。【高原寿夫】(ニッカンスポーツ・コム/野球コラム「高原のねごと」)