6月5日の甲子園。9回表に岩崎が逆転2ランを浴びた。静まり返るスタンド。でも裏がある。淡い期待を抱いて見つめた。すると同点、逆転のチャンスがきた。1死一、二塁。ここで打順は2番に。その時、すでに前川はベンチに下がっていた。

逃げ切りへ、レフト前川を島田に代えた後に訪れた好機。あくまで「たられば」であるが、前川がそのままだったら…と考えてしまう場面になった(代打ミエセスもあったのでは。前日、則本からヒットを放っていたし)。足の速い島田だから併殺はないと考えていたが、最悪のゲッツーに。すべてが裏目に出てしまった。

6日付の日刊スポーツを読む。谷繁元信の評論で前川のことを記していた。打席の内容を高く評価するものばかりだった。そして、今後のポイントとして前川の起用法がカギと締めくくっていた。確かに、その通りと思う。現状の攻撃陣。多くを望めない中、前川の存在は希望を抱かせるもの。監督の岡田彰布も、前川の限定起用を見直す時にきているのではないだろうか。

高卒3年目に過大な重圧をかけるのは酷だが、それをはね返す技量とメンタルを備えているのでは、と思っている。まず打席に入る時に見てほしいのがヘルメットだ。黄色いツバの部分が黒くよごれている。バットのすべり止めが付着してのものだが、前川は一向に気にしていない。ユニホームの着こなしとか、身なりを気にする若手が多い中、この豪放さは彼の魅力といえる。

谷繁が指摘していたように、目的を持った二塁ゴロ。何としても走者を進めようとした激しい執念。さらに右中間を破るタイムリーは思い切りのいいスイングだった。そのあとも四球を選び、最後の三振も谷繁は意味ある三振と褒めていた。

岡田はここまで相手投手が右の時に前川を先発で起用してきた。左ならノイジーという併用で進んできたが、そのノイジーは2軍。となれば小野寺や植田が代わりになるが、正直、それなら左右関係なく前川で…と思ってしまうほどの可能性を、彼は秘めている。

打順はどうか。5日の試合は2番だったが、クリーンアップでもいいし、6、7番でもいい。どの打順でも相手に怖さを与える打者という点は変わりない。

大山、ノイジー、佐藤輝、井上が2軍という異例の展開…。その中で岡田は日々、打開策を練り、その日の最良策を打つのだが、ほとんど実りなく経過している。1年前、あれほどハマった岡田マジックが、すっかり影を潜めた。チーム全体が浮足立っているように思える。それでも貯金がある(5日現在、1つの貯金)。これがチームのよりどころ。そういう時に現れてほしいのが救世主だ。

前川には、可能性を大いに感じる。野武士のようなふてぶてしさ。少々のことではめげない心。ヘルメットのよごれを消さないでほしい。こういう若者がチームを救う…と願っている。【内匠宏幸】(敬称略)

阪神対楽天 3回裏阪神2死一塁、前川は先制適時二塁打を放つ(撮影・上田博志)
阪神対楽天 3回裏阪神2死一塁、前川は先制適時二塁打を放つ(撮影・上田博志)