田村藤夫氏(62)が、楽天金武での阪神との練習試合から、楽天のドラフト2位・安田悠馬捕手(21=愛知大)のバッティングとディフェンス面に注目した。

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安田の第1打席は、阪神の先発秋山のフォークを中前に運び、第2打席は藤浪の内角まっすぐを、あわや藤浪強襲の強烈な中前打とした。

いずれの打席も追い込まれてから捉えている。追い込まれるまでのスイングと、追い込まれてからの振りはどうかと注目していたが、しっかりコンパクトにボールをとらえようという意識は感じた。

特に、藤浪には1球目、2球目ともまっすぐにドンピシャのタイミングで振っていた。私は、若手選手を見るときには強く振れるかどうかをひとつのポイントとしているが、安田のスイングは相手バッテリーを警戒させるに足る強さがあった。強いて言えば、1球目、2球目のどちらかをしっかり仕留められるようになると、さらにいい。これは、プロの1軍レベルの打者にも総じて言えることで、ミスショットなく打てるかどうか、これは高いレベルの課題と言える。

むしろ、1球目、2球目のまっすぐを果敢に打ちに行き、内角はどうかなと思っていたが、しっかり対応できていた。それも打球速度もあり、いかに強く振れているかと感じさせてくれる。大卒ルーキーが練習試合とは言え、対外試合で4番というのはなかなかのもの。この日の阪神は佐藤輝が4番で、こちらも迫力あるバットの振りを見せてくれた。ルーキー、2年目の強打者が4番の試合というのは、見ていて楽しみになってくる。

さて、ディフェンス面に目を移す。高田孝とのバッテリーで、印象に残ったのは序盤の小野寺の打席だった。変化球、変化球で追い込み、外角まっすぐがボールでカウント1-2。4球目に内角で見逃し三振。小野寺に変化球への意識づけをさせておいて、意表をつく内角まっすぐで仕留めたい安田の狙いがうかがえた場面だった。

ミットにボールが収まった瞬間、ストライクを確信したかのように立ち上がり、どうだと言わんばかりのポーズでベンチに引き揚げて行った。私は、ルーキーのこうした自信にあふれた振る舞いはいいと思う。そうそう何度もできないだろう。仮にこれで球審にボールと判定された時にどうするのか気にはなるが、この場面での安田の若々しい態度は好感が持てた。

半面、珍しい場面もあった。松井がマウンドに上がり、今度は課題が明確に出た。右打者の内角を要求し安田がキャッチングの構えを見せたが、松井はもっとしっかり体を寄せて構えてほしかったようだ。次の投球に入る前、マウンド上から安田にジェスチャーで、もっと右打者の内角に寄るように要求していた。

私が見ていた範囲では、安田はミットを動かすだけだったが、松井が要求したように体をしっかりコースに合わせて寄せていった方が投げやすい投手もいる。これは、わかりやすいシーンとなったが、安田が覚えなければならないことが膨大にあることを意味している。

投手とのコミュニケーション。これが捕手にとって何よりも大切になる。どんな球種があり、カウント球は何があり、どんな場面でどのボールを投げるのか。こういう情報をすべての投手の分だけ頭に入れておかなければならない。そのコミュニケーションが足りていないから、松井のように要求されることになる。

もっとも、ルーキー捕手の2月中旬の段階ですべての投手の情報を頭に入れろというのが無理という話で、こうした場面を経験しながらどんどん自分から進んで投手と会話するしかない。楽天には、そうそうたる投手がいる。田中将にはじまり涌井、則本、岸。いずれも実績十分で、ルーキー安田からすれば、なかなか気軽には声はかけられないだろう。

しかし、それを臆せずどんどん話し掛けることだ。私は宮崎キャンプでソフトバンクの城島球団会長付特別アドバイザーと話をしたが、その城島は当時ダイエーの工藤、武田に食い下がって話し掛けていた。つまり、捕手は投手の持ち球はもちろんのこと、ピッチングの組み立て方、性格などあらゆることを会話の中で確かめ、頭に入れておかなければ仕事にならない。

この試合で、主力クラスの投手から構える位置を修正されたのは、非常に珍しいシーンだったが、これを出発点として、安田は投手陣にかじりついてでも情報を入手するしかない。あまりこの時点で多くを求めても、頭がパンクしてしまうだろうが、捕手は覚えることが膨大だ。

自軍の投手情報ばかりではない。相手打者の特徴、新戦力打者の特徴など、常に情報を更新する研究心も求められる。

私は捕手でプロ野球を生きてきたので、安田のような打力のある捕手が、このまま捕手として経験を積みながら育ってほしいと願わずにいられない。安田のような打力に可能性を秘めた捕手は、チーム事情にもよるがコンバートされてしまうケースはいくらでもある。しかし、それでは経験を重ねてレベルを上げていく捕手は育たない。

城島アドバイザーも、規定打席に到達する捕手が少なくなったと言っていた。私もそう感じる。もちろん、打てて守れる捕手などそうはいない。そして、そうは育たない。しかし、安田のシュアなバッティング、自信あふれるキャッチングなどを見ると、それこそダイエー城島、ヤクルト古田、中日谷繁、巨人阿部のような打てて守れる捕手に挑戦してもらいたいと、切実に願いたくなる。(日刊スポーツ評論家)

楽天対阪神 1回表終了後、楽天先発高田孝(右)と言葉をかわしながらベンチに引き揚げる捕手安田(撮影・江口和貴)
楽天対阪神 1回表終了後、楽天先発高田孝(右)と言葉をかわしながらベンチに引き揚げる捕手安田(撮影・江口和貴)