<練習試合:ヤクルト2-6楽天>◇22日◇沖縄・浦添

田村藤夫氏(62)が、ヤクルト-楽天戦(浦添)の練習試合を取材。将来の大型捕手として注目する楽天のドラフト2位安田悠馬捕手(21=愛知大)のリードをじっくり観察した。

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私は安田の打力に大きな可能性を見るから、捕手として研さんを積んでもらいたいと感じている。プロとして多くを経験するということは、いかに失敗をするかとも言い換えることができる。

今の安田は1軍生き残りをかけて結果を求められている。バッターとしてはヒットを、捕手としてはいかに失点を防ぐか。この2点に心血を注いでいるだろう。大卒ルーキーの必死な様は見ていて伝わってくる。その真剣味が分かるからこそ、この時期の失敗を少し角度を変えて考えてもらいたい。

田中将とのバッテリーでヤクルトの主砲村上と対戦した。初球まっすぐがボール。カウント1-0から、安田のサインに田中将は何度か首を振った。そして投じたのは外角へのツーシームか、あるいは挟んでいたように見えたからスプリットかもしれない。コースはベース板に乗っていた。このやや沈む球で一ゴロに打ち取った。

続く村上との対戦は、安楽とのバッテリー。初球はまっすぐがボール。カウント1-0から、安楽は安田のサインにうなずき外角ストレートでカウントを取りに行き、左中間へ1発を浴びた。バックスクリーンの左、見事な一撃だった。打たれたもののボールのコースは悪くない。高さはスタンドの私にははっきり分からないが、ベルト付近に見えた。

私は試合前の村上のフリー打撃に間に合ったため、スタンドから見ていた。左翼へ軽々と運んでいく。今の村上は球界を代表する左のスラッガーだ。安楽-安田のバッテリーがバッティングカウントで外角まっすぐでストライクを取りに行き、それをものの見事に左翼に運ばれた。私はそりゃ村上なら打つだろう、と感じた。安田はおそらく、あれをあそこまで運ぶのか、と驚いたのではないか。

しかし、ここにこそ安田が学ぶことが詰まっている。田中将は同じカウントから、安田のサインに首を振り、外角にやや沈む球(私にはそう見えた)を選択した。そして、同じ状況で安楽と組み、今度は外角まっすぐであそこまで飛ばされた。プロ野球のバリバリの主力とはそういうすさまじい力を持っている。あれを、あそこに運ぶのか。きっと安田はそう感じたと推測するが、その衝撃を大切にしてほしい。

その衝撃は、これからオープン戦、シーズンを戦う中で、試合の正念場で安田に大切な選択肢を与えてくれる。パ・リーグではソフトバンク柳田、オリックス吉田正にそうした破壊力を感じる。村上から受けた衝撃を、パ・リーグの猛者を相手に、貴重な教訓として生かしてほしい。

田中将はなぜあそこでやや沈む球を選択したのか。そして、安田のサインは何だったのか。その根拠はどこにあったのか。ここをしっかり整理して頭の中に入れておくことだ。そして一ゴロに抑えたことを伏線に、どういう戦略で第2打席に臨んでいたのか。自分の考え方を振り返り、そこに村上のすさまじい破壊力を加味して、次に同じ状況を迎えたなら、どうするのかシミュレーションしておく。これも1つのやり方だ。

開幕1軍を目指すルーキーに、余裕はない。目の前の1日を全力で乗り切る。試合があるなら、どんなヒットでもいいから安打を求め、捕手ならば何とかして失点を最少に食い止めたい。そんな精神状態で、私が説明したような気持ちの整理はなかなか難しいだろう。しかし、失敗は忘れない。これはこの世界の鉄則だ。そして失敗から学ぶものが、たくましく生き残っていくカギになる。

オープン戦が始まる。ここからの成功は、自信にはつながるが、公式戦での活躍を保証はしてくれない。結果を出したとしても、相手は試していただけで、公式戦ではこの時期の対戦経験を元に研究してくる。つまり、オープン戦での成功は、公式戦での試練とも表裏一体だ。

では、失敗はどうか。失敗により先発を外れたり、2軍に落ちるリスクもある。それこそが、ルーキーたちには死活問題だが、いずれ浴びなければならない試練を、早くに受けたという見方もできる。その試練をプロの洗礼として思い出にするのではなく、今度は逆に相手を研究する材料とするタフさが求められる。

安田と村上は同い年だ。村上が2月2日、安田は3月3日と誕生日も近い。体のサイズも同じくらいスケールがあり、左の強打者として共通点もある。現状では、プロ5年目の村上が、何歩も先を行っているが、ルーキー安田にもここからどこまでその差を詰めるか、可能性はある。

その可能性を高めていくには、次の試合でこの打たれた教訓から学んだものを、状況に応じて生かせるかにかかっている。プロにはあんな打球を飛ばす打者がいると、肌で感じたと思う。抑える、打たれる、この無限に続く勝負の世界に安田は入っていく。ある意味、プロを実感した重い意味を持つ1日になったかもしれない。(日刊スポーツ評論家)

ヤクルト対楽天 1回裏終了後、楽天先発田中将(中央)とグラブタッチをかわす捕手安田(撮影・江口和貴)
ヤクルト対楽天 1回裏終了後、楽天先発田中将(中央)とグラブタッチをかわす捕手安田(撮影・江口和貴)
ヤクルト対楽天 4回表楽天2死、空振り三振に倒れ声を上げる安田(撮影・江口和貴)
ヤクルト対楽天 4回表楽天2死、空振り三振に倒れ声を上げる安田(撮影・江口和貴)
ヤクルト対楽天 4回表楽天2死、空振り三振に倒れ声を上げる安田(撮影・江口和貴)
ヤクルト対楽天 4回表楽天2死、空振り三振に倒れ声を上げる安田(撮影・江口和貴)