田村藤夫氏(62)が、教育リーグDeNA-西武戦を取材。西武のドラフト3位・古賀悠斗捕手(21=福岡大大濠-中大)に注目し、捕手としての本質的な部分での強化ポイントを解説する。

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捕手というのは、本当にたくさんのことを身につけなければならない。私は2月に宮崎、沖縄で各チームのキャンプを見て回ったが、あらためて新人捕手が直面する課題の多さをかみしめていた。その中で、高卒で奮闘するロッテ松川、そして古賀と同じ大卒として何とか1軍にくらいついている楽天安田の健闘ぶりを目の当たりにしてきた。

キャンプ取材から戻り、今季の開幕を前に、はじめての2軍戦で私の視線は当然のことながらルーキー捕手に注がれた。古賀は肩も強い。強肩強打として大学ではトップクラスの評価を受けていると、昨秋のドラフト前に各球団のスカウトから聞いていた。

イニング間の練習で二塁への送球を見て、肩は強いと感じた。いいボールを投げる。そしてステップも左足を先に動かし、より素早い送球ができるよう、意識していると感じた。ソフトバンクの甲斐がやはり、送球時には左足からステップをする。細かいことだが、そうしたところに取り組むことには、研究熱心さを感じた。

4回1死一塁。盗塁の場面が巡ってきた。ストップウオッチを手に、試合ではどんな送球をするのか楽しみにしていた。右打者の真ん中への真っすぐだった。走者のスタートは左打者に比べれば見やすい。それも真っすぐ。従って、スムーズに送球できるだろうと瞬間的にイメージしたが、意に反して送球は遅かった。

手元のタイムは2・21秒。一般的に1・9秒を切れば合格と言われる中で、かなり遅い。打者が空振りしたこともあるが、あの肩で、あのステップへの取り組みをしていながら、こんなにタイムがかかるとは、かなり意外だった。むしろ、期待していたため「走れ、走れ」と念じていたほどだった。矢のような送球に、ここにも有望な捕手がいると、想像していたのかもしれない。

しかし、遅かった。たまたまなのか。何か原因があるのかと、少し考えてみたが、思い当たる節はあった。打者は空振りしていた。私の見ていたリズムと、古賀との動きに差が生まれた気がした。つまり私の目にはこう映った。走者はスタートした→打者は空振りした→あっ、投げなきゃ。こんな時系列に見えた。

あくまでも私の主観に基づいた想像で、本人の考えたことはまるで違うかもしれない。ただ、スタンドから集中して見ていた私には、古賀の体の動きに、準備不足を感じた。つまり、強肩でも、ステップを練習していても、ひとつひとつの動きの中に、盗塁を刺すための連動性がなければ、どこかぎこちなく、動きはひとつ、ひとつがぶつ切れになってしまう。

この試合での古賀のキャッチングは悪くなかった。ワンバウンドへの反応もむしろ、良かった。運動能力のひとつ、ひとつはプロレベルと言えるが、それらをスムーズにつなげて、滑らかな動きに仕上げるには、まだまだ足りないものがある、ということだ。

同じことが、リード面でも感じられた。左腕とのバッテリーで迎えた2回2死二、三塁。8番の右打者に対してカウント1-1から、投手に声をかけることも、ジェスチャーもなく、サインを出して、打たれて2点を失った。この場面、打者は下位が続く。9番は左打者だった。2打者で1アウトというスタンスで左腕投手に声をかけるだけで、投手心理は大きく変わる。

2死二、三塁で打線が8番、9番ならば、ここはしっかり抑えて無失点で切り抜けたいところ。少なくとも投手はそう感じるだろう。逆に、何の指示もなく声がけもなく、淡々とサイン交換して打たれたら、非常にもったいない2失点になる。最悪を想定した時、投手に声をかける、指示をするというちょっとした動きが、試合の肝心なところでは大切になる。こうした仕組みを、まだ古賀は深く理解していないように感じた。

同じように、3回2死走者なしで、スライダーを続けてカウント0-2と追い込みながら、3球目もスライダーで、打たれて2死一塁。さらに次打者にも初球を打たれて1点を失っている。ここでも、2死走者なしのカウント0-2から、淡泊に同じ球種を選択するところを考えてほしい。そして、投手に対して大事に行こうとか、広く広くと声をかけるなどの気配りがあれば、状況は全然違ってくるだろう。

勝負どころという言葉がある。2死で得点圏に走者を置いて下位打線、もしくは2死で打者を追い込んでからの詰めのリード。試合状況にもよるが、勝負どころは試合の中に何回も出てくる。ここで何の確認もなく、投手も分かっているだろうとの予測のもと、簡単に攻めて打たれた後の投手の心理、内野陣の空気感、こうしたものは捕手が誰よりも先に感じ、先手先手で手当てしていくべきものだ。

ひとつひとつのプレーについて、結果論から逆算して、細かい部分に課題を見つけ出しているようで心苦しいが、古賀のこの試合での動きからは、プロの捕手としてはもっと細やかな配慮が必要だと感じた。そして、7回に両手を広げて「広く」というジェスチャーをしたシーンを見ると、やろうとする意欲、意識の片りんは感じることができた。ならば、この試合から学べることは古賀には多くあるとも言える。それを、おろそかにせず、スコアを見ながら振り返り、今後同じケースに備えた時の大切な教訓にしてほしい。

学ぶことは多く、気を配るところは無限にある。そして、ひとつずつ覚えていけば、古賀が考えるよりもずっと早く、勝負どころでやるべき事柄が頭に入ってくるようになる。この試合をスタートとして、さまざまな角度から試合場面を考え、捕手としてやるべきことを試行錯誤しながら学んでほしい。(日刊スポーツ評論家)

ブルペン投球後に松本(右)と話す西武古賀
ブルペン投球後に松本(右)と話す西武古賀