進化の1発で最後の夏の幕開けを飾った。超高校級スラッガーの早実・清宮幸太郎内野手(3年)が、チーム初戦の南平との3回戦で高校通算104号の先制2ランを放った。第1打席の1回1死二塁、直球をこすりながら、右翼ポール際に運んだ。前日14日に映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」のBGMを使ったモチベーションビデオで気持ちを高めた主砲は、主役級の活躍で最高の船出を果たした。

 清宮の高校最後の夏は、代名詞のアーチで始まった。0-0で迎えた1回1死二塁、3ボール1ストライクからの直球を強振。「こすった」打球は約7秒間の放物線を描き、右翼席で弾んだ。史上最多とされる107本にあと3本に迫る高校通算104号でチームを勢いに乗せ、9-2の8回コールド勝ちに導いた。

 「打球の上がり方も似ていた」。打った瞬間、脳裏には昨夏の準々決勝・八王子学園八王子戦の最終打席がよぎった。本塁打が出れば同点の場面で約5メートルスタンドに届かず、チームも敗戦。「一生、忘れません」と飛距離5メートルアップも込め、スローガンを「GO!GO!GO!」に決定。体幹、ウエートトレで鍛えた成果を示した。

 出陣の儀式は、チームメートが作成したモチベーションビデオで行った。前日14日、過去の自分たちの試合を集めた約20分間の映像を見ながら、気持ちを高めた。BGMには映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」の音楽などを使用。「それを見て、盛り上がった」翌日、“主演男優賞”の活躍で応えた。

 ビデオには、侍ジャパン流の屈辱的なシーンも盛り込まれた。3月のWBC前、代表選手たちは出陣式でプレミア12の準決勝で敗れた韓国戦の映像などをファンとともに鑑賞し、士気を高めた。同じように、清宮ら早実ナインも、今春のセンバツで敗れた東海大福岡戦の映像を見て「悔しいですし、みんなもシーンとなって見ていた。それぞれ思うところがある」と闘志を燃えたぎらせた。

 「早実の大会にする」と誓ったこの夏、求める結果は高く貪欲である。公式戦では今春の東京大会の準々決勝・駒大高戦から、6試合連続本塁打をマーク。それでも清宮は首を横に振った。「3打数1安打なんで、まだまだです」。4回戦は17日の芦花(ろか)戦。野球を愛し、野球の神様に愛される夏は、ギラギラと照りつける太陽とともに熱く、幕開けした。【久保賢吾】

 ◆映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」 ディズニーランドの人気アトラクション「カリブの海賊」を映像化した人気シリーズ。米俳優ジョニー・デップ(54)演じる海賊ジャック・スパロウが大海原を舞台に海賊や巨大怪物と大立ち回りを演じる冒険ファンタジー。03年に第1作「呪われた海賊たち」が公開され、日本ではシリーズ4作で累計興収365・9億円を記録。最新作「最後の海賊」が公開中。