<君の夏は。>

 痛みも関係なかった。3点を追う8回先頭。石岡一(茨城)の4番笹目大樹外野手(3年)は、右手首の激痛に耐えながら、内角の変化球を捉えた。打球は右中間へ抜ける二塁打となり、アンダーシャツの下にテーピングされている右手を高々と上げた。

 内角球を打つと痛みが出るため、なるべく打たないようにしていた。そんな事情を知っているチームメートは、この一打で奮起した。続く谷田部雅生内野手(2年)が左前打で無死一、三塁とすると、6番原田大地内野手(3年)の左前適時打で1点を返した。9回にも1点を加え、強豪常総学院を5-6と最後まで追い詰めた。

 4打数2安打の活躍を見せた笹目は「(8回は)痛いけど打っちゃいました。1度は諦めた夏なので、出られただけでも感謝です」と、悔しさをにじませながらも、やりきった表情で話した。

 今春の県大会開幕前日の4月26日だった。打撃練習中に右手首を疲労骨折した。骨折する前は練習後もバッティングセンターに通い、1日900スイング以上を振り続けた。チーム一の練習の虫だったが、体が悲鳴を上げた。当初は全治3カ月と診断され「俺の夏は終わった…」と絶望した。

 母千恵子さん(46)とつくば市内の病院に向かう車の中で、我慢してきた悔しさが一気にあふれ出た。隣を見ると母も泣いていた。「悔しいね」。母と2人で声を上げて泣いた。母の涙を見たのは初めてだった。

 同月28日に折れた骨の除去手術を行い、5月中は激痛でバットを握れなかった。6月初旬から素振りの許可は出たが、本数は1日30本に制限され、焦りが募った。7月1日の磐城(福島)との練習試合で、ようやく4番に返り咲き、夏の開幕に間に合った。

 今後は大学で野球を続けるつもりだ。「強いところで上、上を目指したい」と意欲を見せた。この経験を無駄にはしない。【戸田月菜】