昨夏4強の黒沢尻工が6-0で水沢第一を破り、快勝発進した。

4-0で迎えた8回裏に「4番左翼」小野寺前(ぜん)外野手(3年)がダメ押しとなる右越え2ランを放つなど、強力打線は健在。新型コロナウイルス感染拡大の影響で甲子園出場の目標を失った3年生を、石橋智監督(59)もアメとムチで支えて士気を高め、力を引き出した。

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黒沢尻工の石橋監督は、愛にあふれたボヤキが止まらなかった。「0点に抑えたのは良かったですけれどね…。本来なら、もう少し打てる打線。いまひとつ。決定打を欠いていましたよね」。3投手での完封には合格点も、打撃陣はわずか6安打。「最低限はストライクを打つこと。速いゴロを打つこと。試合の中で修正出来ないことがダメ」。14度の飛球アウトを、特に厳しく指摘した。ヤクルト、楽天などを指揮した故野村克也氏のような「イシさんのボヤキ」は、期待の裏返しだった。

大会直前の先月30日、同校グラウンドでの守備練習中。石橋監督は1つの作戦を決行した。緩慢なプレーが続く選手らに「お前ら、負ければいいのに。オレはもう帰る」とカミナリを落とした。選手らは練習を中断し、約40分間、自分たちを見つめ直すミーティング。この日、左中間適時二塁打を含む1安打1打点の加藤琉生主将(3年)からの猛反省電話を受けると「この油断が大会に出るんだよ」。練習に戻ると、選手からは「負けられねえ」と語気を荒らげた闘志も回復。「59歳になったから楽にやらせてくれと思うんですけれどね。技術よりもここですよ」。胸をポンポンとたたき、「言い返してくるやつもいるんですよ」と、どこかうれしそうだった。

加藤主将は「監督は親以上にいろいろなことを教えてくれる。甲子園はなくなってしまったけれど、夏に勝って感謝の気持ちを示したい」。8回に右翼ボール際に公式戦初弾を放った小野寺も「ケースバッティングは監督の教え。甘い球だったので外野まで飛ばそうと思った」。1死三塁の場面で高めを逃さず、石橋イズムを実践した。

まずは、昨夏準決勝で勝利目前まで迫った花巻東との再戦が最低目標だ。同校監督就任後、まだ涙を流したことはない。「選手には負けたら泣くかもよって言ってあります」。岩手を制して監督にうれし涙を流させることを、選手らは誓い合っている。【鎌田直秀】