伝統野球全開だ。広島商が広島県高野連が開催した独自大会決勝で、12安打に小技を絡めて広陵を9-1で下した。

2回に連打から連続スクイズを仕掛けるなど一挙5点を先制。中盤以降もバントから得点を重ねて突き放した。プロ注目の高井駿丞投手(3年)の登板はなく、先発した広島智広投手(3年)が8回1失点と好投。荒谷忠勝監督(44)の誕生日を“連覇”で祝った。

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手に優勝旗も、胸元に金メダルもない。この先に待つはずだった甲子園での全国選手権大会も、ない。それでも難局を乗り越えて2年続けて夏の頂点に立った“広商ナイン”は誇らしげだった。

伝統の機動力野球が全開だった。2回無死二、三塁から中島勇介主将(3年)のスクイズ(記録は遊撃内野安打)で先制すると、続く広島もスクイズ。広陵のミスを誘い、その後も2者連続適時打で5点を奪った。4回、8回にも犠打から2点ずつ加点。12安打に3犠打、2盗塁を絡めて9点を奪った。

3月半ばから約3カ月半、新型コロナの影響で活動自粛を余儀なくされた。「Hope is a good」。荒谷監督は失意の選手たちに、学生時代に見た映画「ショーシャンクの空に」の名ぜりふ「Hope is a good thing(希望は素晴らしいものだ)」から取った言葉で励ました。突き動かされるように選手たちも前を向いた。自粛中も投手はほぼ毎日走り込み、野手は家が近い選手たちが3、4人集まってバント練習。限られたスペースでも「9回無死一塁」など状況設定して緊張感を持たせた。LINEで練習風景を動画で共有しながら切磋琢磨(せっさたくま)。自粛期間も伝統野球を磨き、監督の44回目の誕生日に重なった決勝で花を咲かせた。

甲子園でのプレーはなくても、広島商ナインには描いた道筋がある。中島主将は「この大会で優勝して、1、2年生が春のセンバツで全国優勝するというストーリーを描いている」と胸を張る。3年生たちの甲子園への夢も、まだ終わらない。中島主将は続ける。「この経験をこれからの人生に生かしたい。社会に出ても、どんな試練にも負けずに戦っていかないといけない」。困難に直面しても前を向き、はい上がり、そして強くなり、頂点に立った。彼らがつかんだ独自大会優勝は、無形の財産となったに違いない。【前原淳】

◆ショーシャンクの空に 94年公開の米国映画。妻と愛人を殺した容疑で逮捕され、終身刑になった大銀行の副頭取アンディーが、二十数年後にショーシャンク刑務所から脱獄するまでを描いた物語。劣悪な環境の中でも希望を失わないアンディーの姿が、多くの映画ファンの共感を呼んだ。主演ティム・ロビンス。監督フランク・ダラボン。

○…広島商のプロ注目左腕、高井駿丞の登板はなかった。前日8日の準決勝の武田戦で166球を投げた影響でベンチスタートとなり、同じく左腕で背番号10の広島が先発。準決勝で18得点を挙げた広陵打線を相手に8回1失点の働きに、荒谷監督は「秋の大会で悔しい思いをしたものを今日の試合にぶつけてくれた」と褒めた。