最後まで輝いていた。鶴岡東(山形)は12日、近江(滋賀)との2回戦に3-8で逆転負けした。「1番中堅」で2戦連続先発出場の武田虎白(こはく)外野手(3年)は、両軍最多の3安打を放つ活躍。7日に行われた盈進(えいしん=広島)との1回戦では1回に負傷交代したが、変わらずにグラウンドへ。応援する人々に雄姿を見せた。

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チームの代表として「あきらめる」の文字はなかった。武田は5点を追う9回2死、中前打で出塁。後続が左前打で続くも、得点できずに試合は終わった。「ベスト8以上が目標だったのでとても悔しい。(3安打は)自分が打っても勝たないと意味がなかったので何も思わないです」。欲しかったのは、自分の結果よりも「勝利」だった。

大阪出身の野球が大好きな少年だった。母香織さん(42)は「暇があればグラブを磨いて、いろんな手入れをして。素振りやキャッチボール。ずっとゲームより野球でした」。小学2年で野球を始め、中学時代は河南リトルシニアでプレー。先輩の話などを聞き、山形の強豪に進学を決めた。高校最後の夏決勝。香織さんは飛行機で応援に行き、歓喜の瞬間を見て「泣き崩れました(笑い)」と喜びでいっぱいだった。

念願の甲子園。だが、武田は盈進戦で1回の攻撃に二塁へ帰塁した際、左肩を脱臼。臨時代走が送られ、同裏の守備で交代した。チームが快勝した翌日、連絡があったという。

「俺はもう甲子園にはたぶん出場できひんから、普通のベンチ入りになるから、もう応援は来なくていいよ」

涙が出てきたが、変わらず応援に行くとスコアボードに「武田」の文字があった。香織さんは「(佐藤俊)監督さんらが『あきらめないよ』ということで、いろんな治療をしてくださって…。ここまで回復できて今日はスタメンでビックリしました」。

試合後、佐藤監督は「初戦に肩をケガして今日も不安だったんですけど、そういった中であんなに活躍してくれて。本当、感謝感激です。最後まで本当にチームの中心選手としてよく頑張ってくれた」。初の8強はかなわなかったが、懸命に戦う球児には隠れたドラマがあった。【相沢孔志】