<センバツ高校野球:花咲徳栄3-2東洋大姫路>◇21日◇1回戦◇甲子園
押し出し死球で同点に追いついた直後だった。花咲徳栄は8回1死満塁で勝負手を打った。フルカウントから一塁と二塁の走者を走らせるランエンドヒット。打球は遊ゴロとなる間に二塁走者までもが一気に本塁を踏んだ。走者が走っていなければ遊ゴロ併殺で無得点の可能性もあった場面。打者が空振りしたら併殺に終わるリスクを冒して、2点をもぎ取った。
岩井隆監督(56)は「正直、ちょっと迷いもあったんです。でも更科が私の方を見ていた。それだけ、うん」。17年夏優勝も経験する百戦錬磨の勘がさえた。二塁走者の市村に代え更科を代走に起用して舞台を整えた。
打席には鈴木。初球、バントの構えに東洋大姫路の内野陣は前進守備を敷いてきたが、1ストライクで二遊間の守備位置が少し下がった。三塁コーチ上原から「内野下がってるぞ」の声。ナインはしっかり状況把握できていた。岩井監督は「カウントによっては動かなきゃいけないと思ってました。鈴木は三振をする子じゃない。なおかつ内野陣が後ろに下がってくれた。これはベンチが動かなきゃいけないと思いました」。鈴木は選球眼に優れ、チーム一、ゴロ打ちがうまい選手だった。
低めの球を見極めフルカウントとし、6球目。指揮官が自信を持って出したサインはランエンドヒット。打席の鈴木は小さくうなずいた。「転がして1点と思った。三振したらゲッツーになりかねない。しっかり芯で捉えてとにかく強い低い打球を打とうと思いました」。さらに、打ち上げないように「引きつけて、ポイントを近くして。しっかりたたくことを心がけました」。一、二塁の走者が同時にスタートを切り、鈴木が外角直球をたたくと、打球は遊撃へ。捕球した時には一塁走者が二塁に到達。二塁をあきらめて一塁へ送球する間に、三塁走者の山田に続き、二塁走者の更科も一気に本塁を陥れた。2点適時遊ゴロ。岩井監督は「大きいのを打つ子じゃないんですけど、ああいうつなぐバッティングは、彼の長所。それを出してくれたのが良かった」。空振りやライナーなら一気にチャンスがついえる。リスクの大きな作戦に見えたが、選手の特徴を把握しているからこそ、成功を信じられた。
練習試合を通じて満塁でフルカウントからエンドランの練習を積んでいた。「でも、実際には三振したらどうしようとか度胸よくできなかった。よく甲子園でいいスタートを切ってくれた。本当にそれは良かったと思います」。25年の監督人生でも経験のなかったこと。「必死のプレーが生んだ1点だと思いますよ」と、成功させた選手たちをたたえた。
今大会から導入されたDH制度のおかげでもあった。「代走はいつも1枚、守備要員を1枚だったが、DH制導入で(代走を)2人入れた。それが山田に更科。DHの恩恵です」。走攻守に特化した選手を積極的に起用できたことが勝負の綾になった。
プロ野球では日本ハム新庄監督が22年6月3日の阪神戦(甲子園)で満塁からのエンドランを成功させている。同じ甲子園の舞台で、鮮やかに決まった花咲徳栄の奇策は、高校野球の1ページに、しっかりと刻まれた。【保坂淑子】
◆両校の前回対戦 03年春の準々決勝で東洋大姫路はベトナム国籍の左腕グエン・トラン・フォク・アン、花咲徳栄は福本真史がともに当時の規定上限となる延長15回を2失点で完投して引き分け。アン191球、福本220球だった。翌日の再試合も延長戦になり、アンと福本は救援登板。10回裏に3番手福本がサヨナラ暴投で力尽き、東洋大姫路が6-5で4強入りした。
◆引き分け再試合の雪辱 花咲徳栄は03年春に引き分け再試合となった東洋大姫路戦で敗れていた。甲子園の引き分け再試合は過去24度あり(16度、夏8度)、同じカードの再現は37年春の岐阜商5-2愛知商、11年夏の作新学院6-3八幡商に次いで3度目。再現試合で雪辱したのは花咲徳栄が初めて。

