151キロをアウトローに見せてから、田中は同じところに143キロのスプリットを落とし込んだ。2点差とされた8回2死二塁。T-岡田のバットを振らせて雄たけびを上げるとスタンドが同調し、この日一番の大きなうねりになった。カウント3ボール1ストライクからのヤマ場を制し、138球完投。「攻めの気持ちが持ち味。腕を振って、いいコースに投げてボールなら仕方がない」。5年目のキャンプで創意工夫し習得した勝負球を、最高の場面で、最高の場所に収めた。

「僕は楽天に入団して良かった」。田中の口から2度、同じセリフが出た。リクルートスーツに身を固めた学生が街中で目立った昨年初夏、そして昨秋ドラフト直後のことである。

田中 指名される以上、選ぶことは出来ない立場。進んだ道でベストを尽くして、居場所を確保することが大事だと思いましたね。いい意見は取り入れながら、自分をしっかり持って、表現する。大切なのは入り口でなく、入ってからです。入ったところを一番いい場所にすればいい。

自己実現を達成するための手段として田中は楽天に来た。駒大苫小牧で力を蓄え、道民の温かい声援をもらい北海道が大好きになった。18歳にとって、道が突然決まることに戸惑いがなかったのかと言えばウソになる。ただ縁を大切にし、創意工夫を重ね、5年目にして「楽天の看板」という居場所を自分で確保した。

あと1球で発生したマサヒロコール。マウンド上でぐるりとみんなを見回した。「投げ切ると終わってしまうのがもったいないと思いました。じーんときましたね。これほど声援が力になった試合はない。ファンに感謝したいです。野球人として幸せを感じます」。最終回は雨だったが、試合が終わると大きな声援をくれた左翼スタンドに虹が懸かっていた。田中将大が楽天に入って良かった。【宮下敬至】

▼田中が今季の本拠地初戦を完投勝利で飾った。楽天の本拠地1勝目の勝利投手は05年岩隈、06年一場、07年青山、08年★田中、09年★田中、10年★田中、11年★田中(★は完投)。これでチーム本拠地初勝利は4年続けて田中の完投勝ち。田中のKスタ宮城での白星は07年7勝→08年6勝→09年10勝→10年7勝→11年1勝の通算31勝目。50年からプロ野球で使用されている同球場の勝利数3傑を出すと、❶田中(楽天)31勝❷岩隈(楽天)26勝❸村田(ロッテ)25勝。この球場はロッテも本拠地として使用していたが、白星は田中が最も多い。