マー君が神の子になった。楽天の田中将大投手(18)がソフトバンク戦に先発し、4回までに5失点しながらも打線の援護を受けて逆転勝ちした。6回降板も10三振を奪う意地の投球で、球団の投手最多勝利数タイとなる9勝目を挙げた。5点差をひっくり返して勝利投手になった田中に、野村克也監督(72)も「神の子」と評して驚嘆した。

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野村監督も、田中の神懸かり的な力に驚くしかなかった。

「マー君、神の子、不思議な子。何点取られるか投げ続けさせたら、天から神が降りてきた。不思議の国のマー君。先祖代々、何かあるんだろうな。そういう星の下に生まれている」。

お立ち台に立った田中も、目の前の光景に笑みを浮かべるしかなかった。「普通なら、ここに立つのもおかしい」。ソフトバンク打線につかまり、4回までに2本の2ランなどで5点を失った。それでもこの日も最後に笑ったのは田中だった。

4回、味方が4点を返して1点差とした。直後の5回、田中は1死一、二塁とされ、鬼の形相に変わった。「情けないと思ってスイッチがさらに入った。ピンチでアドレナリンが出る。持っているもの以上のものが出る感じがする」。小久保をフォークで空振り三振。柴原もスライダーで空振り三振に切り、流れを譲らなかった。捕手・嶋も「全力でなくていいから低めに、と話していた。それが5回に来た」と言った。

本領発揮で正念場を乗り切ると、その裏、打線が3得点で逆転。お祭り騒ぎのベンチで、田中も手をたたいて喜んだ。「すごい点を取ってくれて、モチベーションも保てた」。6回もこん身の直球で押して無失点。後を受けたリリーフ陣も、田中の神通力が乗り移ったかのように残るイニングをピシャリ。田中に、05年岩隈に並ぶ球団タイの9勝目が転がり込んだ。

運だけではない。原点回帰で、伝家の宝刀スライダーをよみがえらせていた。「この間のオリックス戦(7月28日)ぐらいから、良かったときの感覚に戻りつつある」。自慢の武器も、交流戦後半は調子が悪かった。「一時期本当にダメだったとき、高校時代の投球を見てよくしようと思った」。7月3日ソフトバンク戦(盛岡)前夜、ホテルの部屋でトレーナー3人とDVDを見た。3枚に収録された駒大苫小牧時代の試合のVTR。大半が打線の映像だったが、投球フォームや球の握りを見て、かつての自分を取り戻した。秋田トレーナーも「わずかな映像でも、感じたところがあったんでしょうね」と感心。この日、奪った三振は10個。切れの戻ったスライダーで、今季2度目の2ケタ三振をマークした。

球団初の2ケタ勝利まで、あと1つ。新人王も現実味を帯びてきたが「一生に1回のチャンスなので取れたらいいけど、あまり欲は出さずに、これまで通り1戦1戦やっていく気持ちは変えないでやっていきたい」。無欲な姿勢に、勝利の女神がほほ笑んでいる。【由本裕貴】

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◆神の子 サッカー界ではアルゼンチン代表FWリオネル・メッシ(バルセロナ)。天才マラドーナの再来といわれる実力を認められたニックネームだ。ゴルフ界では7月の全英オープンで惜敗したセルヒオ・ガルシア(スペイン)。アマチュアだった10代のころ、プロをも脅かす実力をみせたことから。格闘技界では山本�KID�徳郁。自ら「オレは格闘の神様の子」と称したことから付けられた。

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★何か持ってる〜!?楽天田中★

◆おみくじ 今年の正月、地元でおみくじをひくとその番号は、背番号と同じ「18」だった。ちなみに中身も大吉。「あまり、おみくじしたことないんですけど」と、言いながら、しっかりと大吉をゲットした。

◆雨男 初めての対外試合となるはずだった2月25日、ロッテとのオープン戦(鹿児島)は雨天中止。久米島キャンプ中のフリー打撃に初登板した際も、突然のスコールで室内へ場所を変え、紅白戦に初先発する日も雨で順延。仙台市内の「泉犬鷲寮」に入寮した1月7日も、外は雨だった。お天道様もマー君に反応?

◆プロデビュー 初登板は3月29日のソフトバンク戦。1回2/36失点でKOされた。打線の奮起で、チームはサヨナラ負けとなったが、田中に黒星は付かなかった。3度目先発の4月12日・西武戦も4回までに4失点したが、田中に勝ち負けは付かず、打線の援護でチームは勝った。