アメリカ各地を回って、日本人メジャーの現在地を見届ける旅。ヤンキース田中将大投手(27)との再会は、意外な形でスタートします。

ヤンキースのロッカールームで、田中は礼儀正しく握手してくれた。8月1日の午後4時前。「ごぶさたです。特殊なところでやってます」と言われた。

確かに、来たばかりでも分かる緊張感が漂っている。当日はウエーバーを必要としないトレード期限日。選手もメディアもテレビを見ている。4時までの残り時間がカウントされている。ギリギリまでトレードがあるのでは? 誰もが注目していた。

私服に着替えたベルトラン(現レンジャーズ)と、気落ちした様子のノバ(現パイレーツ)が、移籍の取材を受けていた。数日前には抑えチャプマン(現カブス)も放出し、数日後にはロドリゲスとテシェイラが引退を表明。「特殊なところ」とは、ヤ軍が大きな変革期に入ったことを意味していた。

若返りを図る名門。田中は、ど真ん中の主力になった。「過去2年、こんなに主力がいなくなることがなかった。日本では考えられないこと。文化の違いですね。いろいろ、思うところはありますよ」と言った。レッドソックス上原の「今の将大は大変なんじゃないかな。重圧のかかる中でやっている」は、エースの重みを指しての言葉。巨人とレ軍で頂点に立ったから、身に染みて分かっていた。

正直に「思うところ」を語った。

「まだこっちに来て3年目。結果を教訓にして、もっと良くなるにはどうすればいいか、いつも考えながらやっている。プロに入って10年間、ずっとそうしてきた。でも一方で、置かれている立場も分かっているつもりです」

周囲の目は厳しい。中4日で結果が出ないとターゲットにされる。「分かってます。でも」と間を置かず、ゆっくりと吐き出した。

「結果を求めないといけないけど、結果とは少し違うところでプレーしている自分もいる。こっちでやっている方は、みなさんそうだと思うんです」

無敗の日本を離れ、最も高く表現できる投球を探し続けている。今のスタイルは。「すべての球種でストライクを取って、勝負できる」と言える。

メジャー3年目の8月、田中は絶好調だった。4連勝に、39イニングで1四球。言葉通り、常にストライクゾーンの中で勝負した。初めて沢村賞を獲得した11年、226回 1/3 を投げて、27個しか四球を出さなかった。「確かにあの時は、打たれない感覚があった。今はないですね。バッターのタイプが違う。下位打線でもホームランがある。同じではないですね」。過去との比較は興味がない。

駒大苫小牧高から楽天。置かれた環境がベストと思えるよう、チームを持っていく地力がある。若きヤンキースも。「投球には幅がある。はたまた…まだ、したこともないピッチングをする時があるかもしれない。そんな感じですね」。ちゃめっ気交じりに笑った。

時は流れている。「筒香、山田。すごい成績。対戦したことないんです」。マー君と呼ぶのは申し訳ない風格がある。「全然…マー君でいいですよ。確かにそう呼ぶ方、少なくなってきましたけど」。27歳。ニューヨークの地に足を着け、理想の投球という永遠のテーマを追い求めている。【宮下敬至】