05年以来のリーグ優勝を予感させるほど、阪神が好調だ。新人佐藤輝明内野手が話題をさらっているが、快進撃の原動力はマルテとサンズの主軸コンビにストッパーのスアレスなど質量ともに充実する外国人選手の活躍だろう。

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阪神は伝統的に助っ人依存度が高い球団で、85年のバースや05年JFKのウィリアムスらが優勝に貢献しようものなら神様・仏様・大統領とファンからもてはやされる。半面、期待を裏切る選手への風当たりはひときわ強く、さっさと「ダメ助っ人」の烙印(らくいん)が押されてしまう。

神様バースとウィリアムス大統領の時代の合間には、ファンが暗黒時代と呼ぶ低迷期が長く続いた。その間、多くのダメ助っ人がチーム不振の責任を一身に負わされた。中でも史上最悪と今でも「話のネタ」にされるのが97年に在籍したマイク・グリーンウェル外野手だ。

1軍出場はわずか7試合。その6試合目の4打席目に自打球で右足甲を負傷した。後のエックス線検査で骨折が判明すると「もう野球は終わり、という神のお告げを聞いたのだと感じた」とあっさり現役引退を決断し、シーズン序盤で退団してしまった。

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そもそも開幕前から、チームもファンもマスコミも、このお騒がせ助っ人に振り回された。高知・安芸での春季キャンプには2月1日の初日から参加。外野のポール間をダッシュしながら打球を捕球する「アメリカンノック」なる猛練習にも新庄、亀山ら日本人選手と交じって取り組んだ。

2月10日にはサイドビジネスの処理でいったんキャンプ地を離れた。スケジュールは事前契約で決まっていた通りのはずが、米国に戻った途端、代理人を通じ「練習中に背中を痛めた。主治医に旅行を控えるよう診断された」と告げて以降は〝音信不通〟。すったもんだのあげく、再来日したのはシーズン開幕後の4月30日。そのため、限定7試合の1戦目、初出場は5月3日、甲子園での広島戦となったのだった。

本拠地デビューの広島3連戦は12打数5安打5打点の活躍で、「遅れてきた大物」感を存分に振りまいた。そのわずか4試合後にユニホームを脱いでしまうとは、もちろん誰も予想だにしなかった。

活躍時期が短いだけでは「史上最悪」の冠はかぶれない。事前の期待感が高ければ高いほど、そのギャップの大きさがバッシングの幅と比例する。入団前年の96年12月。メジャーの名門ボストンで10年近く中軸を張り「ミスター・レッドソックス」とまで称されたスラッガーの日本移籍は、過去に例のない形でお披露目された。

契約書を携えて太平洋を渡った球団常務と渉外担当者に、日本から10人以上のマスコミも同行した。米国フロリダの広大な自宅で調印し、即、入団発表を行うためだった。

〝会場〟のリビングルームは現地メディアに関係者、知人、友人を含め、総勢70人近くが詰めかけても狭さを感じなかった。つまり小・中学校の教室2部屋分は優にあるスペースだった。テレビ・ラジオ各局のインタビューに一通り応じると、パーティーの主役は日本からの訪問者をバギーカーに乗せ、自らハンドルを握った。「これからうちを隅から隅まで知ってもらうよ」。

飛行機の滑走路や所有するレーシングチーム用のカーピット、狩猟のできる林やワニの生息する沼地…。ざっくり甲子園球場20個分と見積もった広大な敷地内を疾走するドライブは、約1時間に及んだ。

入団発表でこんな大がかりな舞台が設定されたのは、SNSはおろか、携帯電話やパソコンの普及率も1桁台だった時代が背景にあるのだろう。ともかく、期待感を高めるだけ高めたミスター・レッドソックスはろくにタテジマをまとわないまま、1人で聞いた「神のお告げ」を理由に野球界から足を洗ってしまった。それはもう、現代ならネット上で大炎上間違いなしの所業だ。

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通信技術の発達とともに、球団の編成力やスカウティング力が強化されたのだろう。神様級の大ヒーローが現れない代わりに、ダメとたたかれお騒がせと煙たがられる助っ人も出てこなくなった。物心ついた時から平均的な外国人選手しか知らないZ世代のファンも増えている。なぜか、昔を知る世代としては寂しい思いがあるのだろうか。史上最高に燃え上がった炎上助っ人の伝説がふいに思い出される時がある。【町田達彦】

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