勝つために、無駄を省く。4日広島戦で通算150勝を達成した楽天涌井秀章投手(34)が、選手のプレーを連続写真で分析する「解体新書」で、5月7日日本ハム戦での自身の投球フォームを分析した。幼少期の父の教えや名門横浜高で培ったフォームをプロの世界でアップデート。09年に沢村賞を獲得し、最多勝4度の17年目右腕の活躍の秘密をひもとく。

  ◇  ◇  ◇

理想は高校時代のフォーム。そこに近づけたいですが、体的に無理。でも当時のいいイメージが頭や体に残っているから、今もいろいろと考えてやれています。衰えは感じませんが、年齢が上がるにつれ、ロスをなくした方が変なブレはなくなると思います。やっていくうち無駄を省くフォームになりました。

(1)では、左足をロスなく上げるためにスタンスを狭くしています。左足を開くと、足を上げる時に1度プレート側へ体重をかけないといけない。足幅を狭めればそのままスッと立てます。(2)では左膝を胸の高さまで上げきるという予備動作を最も意識しています。上がり切る前に投げ始めてしまうと体を突っ込みながら投げにいってしまう。この写真の(2)から(3)へはうまく下半身から体重移動できていると思います。足を上げる方が力もたまりますし、間も作れます。

高校時代、フォームがまとまりすぎて怖さがないと言われていました。足を上げ、止めることなく1つのリズムで投げていたので、調子が悪いと「1、2、3」と打者のタイミングが合いやすく、投げ急いで体が突っ込んでいました。2年の冬に2段モーションのようなフォームに改善しました。1回足をちゃんと上げてしまえば、パワーがしっかりとたまって、足から自然に投げられると思います。

(3)の右足の折り方、顔の位置は理想的です。ただ、この試合は状態が良くなかったので(4)であごが上がり始めています。もう少し目線が下を向かないといけないです。(4)からちょっとずつ左肩が上がり右腰、右肩が落ちて縦回転ができない。(1)から(5)まではそんなに力が入っていませんが、(6)ですごく力が入って、右腕が遅れてしまっています。

(7)であごと目線を修正し始めていますが、その分(8)では右手が体から少し離れています。(6)で右腰が落ちたことで下から右腕を持ってこないといけない。(8)の部分ではまだトップまで来ていません。(8)と(9)の間でもっと右肘を上に持ってこないといけないです。

テークバックをコンパクトにしている意識はしていません。高校時代に形作りはできていて、体の前で左手のグラブと右手を合わせて、回すように割り、トップを作る練習をやっていました。そのまま横に割るのではなく、回して開いた方がトップもしっかりと作りやすいですし、間も作れる。いい投手はこの形ができていると思います。

(9)では、もっと前で球を離したいです。(8)で腕が遅れている分、この位置になっていると思います。中学時代にシャドーピッチングで毎日おやじに「前で離せ」と言われ、自然と習慣づきました。調子がいい時は目の上の辺りまで、リリースの瞬間が見えます。

高校時代に「プレートの中で全部の力を使い切れ」と教わりました。プレートの両端からホーム側へ見えない壁があるとして、その中で投球を完結できれば、力を全てホーム側へ伝えられる。投げ終わりに顔が左右どちらかにずれていたら、正面に力が入っていないということだと思います。

(10)~(12)の右足は、わざと残しているわけではないです。足を離したら軸も横にぶれてしまう。右足を離した方が前で離せると思われるかもしれませんが、残っていた方が前で離せると思います。足を離してしまったら、その時点以上に前で離すことはできないので、プレートをしっかりと蹴った右足が、自然と残っているという感じです。ただ、逆に前で離そうとし過ぎてダメな時もあります。体重がしっかりと乗り切らず、体だけ前に行ってしまって右足が残ってしまう。(11)、(12)を見ると左膝が外側に割れて、つま先が浮いてしまっています。(10)のようにつま先が地面にくっついていれば投げ終わりも収まります。

小谷(正勝)さん(元ロッテ投手コーチ)は、僕の投球リズムを「1、2の3、4」と表現されますが、おそらく(3)で左足を伸ばしたところから、着地までの部分で間が生まれているからだと思います。プロ1年目が終わり、2段モーションが禁止となったのでフォームを変えて、今の形になりました。元々のリリースの遅さと左足をつくまでの遅さで自然と間合いができたと思います。

体はそんなに柔らかくないと思います。昔は自分のフォームがきれいだなと思いましたが、今はそんなにきれいじゃない。若手投手にアドバイスを求められても「ぶれがなくていいんじゃない?」と(1)と(2)くらいしか教えることはありません。正解はないと思いますし、人それぞれのフォームがあると思うので、これからも改善と修正を続けていきたいです。

◆涌井秀章(わくい・ひであき)1986年(昭61)6月21日生まれ、松戸市出身。横浜から04年ドラフト1巡目で西武入団。13年オフにFAでロッテ移籍。19年オフに金銭トレードで楽天入団。最多勝利4度(07、09、15、20年)沢村賞(09年)ゴールデングラブ賞4度(09、10、15、16年)。08年北京五輪、09、13年WBC日本代表。16年にモデル押切もえと結婚。今季推定年俸1億6000万円。185センチ、85キロ。右投げ右打ち。