苦労人「なべじい」が待望のプロ初勝利をつかんだ。阪神渡辺雄大投手(30)が同点の6回に2番手で登板し、1イニングを無失点に抑えた。7回に味方が大量6点を奪い、勝利投手に30歳7カ月、球団では2リーグ分立後2番目の高齢初星だ。「かなり遠回りをしての初勝利。とてもうれしいですし、誇りに思います」とかみしめた。

冷静な判断が勝利につながった。6回に先頭の代打広岡に左安を許した。続く大城がバントで投前に転がした。「最初から二塁は狙っていた」と迷わず二塁へ送球しアウト。代打若林、吉川から連続で空振り三振を奪うと、小さくガッツポーズ。重要な局面で好リリーフを見せた。

左腕の力投を恩師もテレビで見ていた。BC・新潟で監督として15年から2年間指導した元近鉄の赤堀元之氏(52)だ。「いつものポーカーフェースで慎重に投げていましたね」。通算139セーブを挙げた猛牛の守護神は「リリーフは弱気になるな。冷静に判断し、どんどん勝負。内角へ厳しく。表情に出すな」と極意を教え込んできた。当時は先発もしていたが「長身(185センチ)で腕も長いので、打者が思ったよりも遠くから球が来る」とプロ入りするにはリリーフしかないと伝えた。ソフトバンクでは戦力外通告で辛酸をなめたが、当時の教えがプロ5年目に生きた。

開幕から10試合、6回2/3で防御率0.00。変則サイドは左殺しだけでなく1イニングを任されるほどになった。ウイニングボールは苦労をかけた家族へ渡す。「今日、僕が30歳で初勝利したように、阪神がここから巻き返して優勝というのも決して無理じゃないと思う」。遅咲きのなべじいはあきらめなかった。猛虎の逆襲を信じたくなる1勝だった。【石橋隆雄】

◆渡辺雄大(わたなべ・ゆうた)1991年(平3)9月19日、新潟県生まれ。中越高では甲子園の出場経験なし。青学大の同期にオリックス杉本、ロッテ東條らがいる。その後、独立リーグのBC・新潟で4年間プレー。17年育成ドラフト6位でソフトバンク入団。3年目の20年に支配下となったが、21年オフに戦力外。阪神と育成契約を結び、キャンプ、オープン戦でアピールを重ね、開幕前の3月22日に支配下契約を勝ち取った。背番号92。185センチ、84キロ。左投げ左打ち。

▼30歳7カ月の渡辺がプロ初勝利を挙げた。阪神在籍中の日本人投手が、30歳以上でプロ初星は2リーグ分立後3人目。福間納31歳1カ月(82年8月14日巨人戦)伊藤和雄30歳6カ月(20年6月27日DeNA戦)以来。

▼前述2人のうち、福間はロッテから81年途中にトレード移籍しており、渡辺と同じく救援左腕。83年69試合、84年77試合登板はいずれもチーム最多。85年には58試合で8勝5敗1セーブと大活躍し、日本一メンバーとなった。