<SMBC日本シリーズ2014:ソフトバンク5-2阪神>◇第4戦◇29日◇ヤフオクドーム

 ソフトバンクが日本一に王手をかけた。2勝1敗と白星を先行させて迎えた「SMBC日本シリーズ2014」の第4戦。1回1死満塁の絶好機でここまで不振だった松田宣浩内野手(31)が左前に2点適時打を放った。連勝した第2、3戦のVTRを見るような1回の先制劇。延長10回2死一、二塁から中村晃外野手(24)が右翼席へ劇的なサヨナラ3ランを放った。

 何と劇的な幕切れだ。中村は、打球の行方を目で追った。右翼ポール際。「切れないでくれ」という願いは通じた。鷹党で埋まったスタンドに届いた。両手を広げて走りだした。夢のような瞬間。日本一に王手をかけるホームインと同時に、ナインにもみくちゃにされた。さらに今宮が、柳田が抱きついてきた。「いやもう、本当に最高です。ずっとポストシーズンで結果を出せていなかった。何とか打ちたいと思っていた。こんな大舞台で打てて良かった」と白い歯を見せた。

 延長10回2死一、二塁。1ボールから3球ファウルでタイミングを合わせた。そして5球目。バットの先でホームベースの外側を1度、内側をトントントンとたたいた。今季公式戦で4本塁打の男が、1軍で初のサヨナラアーチ。絶対的守護神の呉昇桓の内角直球に力負けしなかった。秋山監督も「素晴らしかった。走者が二塁で外野が前にいたし、ミートして頭を越えてくれたらと思っていた。まさか本塁打とは」とうなった。

 今季のパ・リーグ最多安打を獲得したが、日本ハムとのCSファイナルステージは19打数2安打。初の頂上決戦も第3戦まで11打数1安打。それでも、レギュラーシーズンの苦しかった時期を乗り越えた男は、たくましかった。

 打順が9番だった5月16日、京セラドーム大阪でのオリックス戦のことだった。打率は2割5分台に落ちていた。「これでも食えよ。形がゼロに似てる。ゼロ安打から抜け出せるやろ」。川根康久査定担当(前チーフスコアラー)が渡した包みの中で、コロッケが湯気を立てていた。中村を元気づけようと、下町の商店街で購入した。うまそうにほおばった中村は、翌17日に3安打の固め打ち。「おいしかった。まさにあれからですよ。打てるようになったのは…」。その後は右肩上がりでリーグ最多安打も獲得。1個50円の幸運のコロッケから上昇した。

 打撃職人は繊細だ。仕上げる機械が普段と異なったバットを手にすると「触っただけで違うとわかった」とすぐに気付いた。見た目も手触りも、普通の人では分からないレベル。それだけバットと手が一心同体となっている証拠だった。

 甲子園の2連戦を1勝1敗で乗り切り、地元で2連勝。今季限りで退任する秋山監督は「明日(30日)がヤフオクドームで最後の試合。ぜひ勝ちたい」。指揮官にとっても、有終の美を飾る本拠地での胴上げが目前に迫った。【大池和幸】

 ◆中村晃(なかむら・あきら)1989年(平元)11月5日生まれ。埼玉県朝霞市出身。帝京では3季連続甲子園出場。高校通算60本塁打。07年高校生ドラフト3巡目でソフトバンク入団。今季打率3割8厘、4本塁打、61打点。リーグ最多安打(176本)で初タイトル。175センチ、82キロ。左投げ左打ち。今季推定年俸3700万円。

 ▼中村が延長10回にサヨナラ本塁打。シリーズのサヨナラ本塁打は09年第5戦阿部(巨人)以来14人、15度目。ソフトバンクでは南海時代にハドリが64年第4戦と66年第5戦で記録して以来、48年ぶり2人、3度目だ。中村の公式戦本塁打は13年5本、14年4本と、まだ通算で9本しか打っていない。公式戦の通算本塁打が10本未満の選手がシリーズでサヨナラ本塁打は、58年第5戦稲尾(西鉄)62年第5戦岩下(東映)83年第5戦クルーズ(巨人)に次いで4人目。サヨナラ本塁打も公式戦では打っておらず、シリーズで「プロ初」のサヨナラ本塁打は83年第5戦クルーズ以来6人目となった。