また一人、生きのいい関取が誕生した。大相撲九州場所(11月10日初日、福岡国際センター)の番付編成会議で、新十両昇進を決めた琴手計改め琴勝峰(20=佐渡ケ嶽)だ。場所前に20歳を迎えた若武者は、西幕下4枚目で臨んだ秋場所で4勝3敗ながら、番付運にも恵まれて関取の座を射止めた。

190センチ、160キロの恵まれた体を武器に、初土俵から所要12場所のスピード昇進。突き、押しを基本に組んでも、右四つから馬力を生かして前に出る相撲が身上だ。番付に初めてしこ名が載った序ノ口で優勝決定戦に臨んだ際の取材ノートには、目指す力士像として「当たって攻めて崩して攻めて、と相撲に流れがあるから」と鶴竜と妙義龍の名前が記されていた。新十両昇進会見でのそれは、兄弟子の琴奨菊になっていたが、いずれにせよ先代佐渡ケ嶽親方(元横綱琴桜)のような猪突(ちょとつ)猛進の相撲で今後も上を目指す。改名したしこ名にも「勝ってテッペン(=横綱)を目指す」の意味が込められている。

角界でささやかれる世代交代の波は、ここ2、3年で一気に押し寄せてきた。関取のほぼ3人に2人が平成生まれとなり、横綱・大関の平均年齢が32・2歳(秋場所番付)と過渡期にあって、この琴勝峰らの新十両昇進は1つのターニングポイントになる可能性を秘める。

九州場所での新十両昇進を同時に決めたのが、あの元横綱朝青龍のおいにあたる豊昇龍(20=立浪)だ。高校こそ日体大柏で埼玉栄の琴勝峰とは異なるが同学年。この学年には、さらに九州場所では幕下1ケタに番付を上げるであろう、関取予備軍の元横綱大鵬の孫にあたる納谷(19=大嶽)、塚原(10月12日で20=春日野)、幕下入りを目指す光宗(20=阿武松)の「埼玉栄カルテット」らが名を連ねる。高校時代にしのぎを削ったライバルに先を越され、納谷らの尻に火がつくことは間違いない。

そんなライバルたちの動向について、琴勝峰は「(入門以降は)自分でやることをやるだけだった。ちゃんと稽古をしていれば番付は上がると思っていたから、意識はなかった」という。序ノ口から先場所までの11場所で負け越しは1場所だけ。54勝23敗とハイペースで白星を重ねてきたが、初土俵が1場所遅い豊昇龍と納谷も49勝21敗で負けじと出世街道をひた走ってきた。

同年代のライバルが何人もいるのは強みだ。ライバルとの出世争いに「意識しなかった」と無表情で語る本人の言葉をヨソに、師匠の佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)は満面に笑みを浮かべながら、正直な胸の内を語っていた。「私は気にしていましたよ。必ず1番で(十両に)上げてやると。あの(世代の)中で絶対に1番でと。彼ら(ライバルたち)の相撲も見てました」。その気持ちは、単に自分の弟子1人の出世だけを考えてのことではない。「一番最初に上がったことで納谷や塚原も『早く追いつきたい』といいライバル心になるでしょう。その年代が(上位に)上がって相撲界を盛り上げてくれればうれしい」。角界全体の活性化を望む気持ちだった。

プロ野球で輝かしい光を放ったのが「松坂世代」。現在の女子ゴルフでは「黄金世代」、サッカー界でも「プラチナ世代」などの言葉が一時代を築いてきた。角界にもかつて「栃若」「柏鵬」「輪湖」などの○○時代、同期生で横綱、大関らを多数輩出した「花のニッパチ」「サンパチ」「ロクサン組」などの代名詞が時代を彩ってきた。果たして数年後、大横綱のDNAを受け継ぐ豊昇竜と納谷が頂点に立ち「○○時代」を築くのか、そこに負けじと琴勝峰らが割って入り「花の99世代」(1999年度生まれ)なる代名詞が誕生するのか-。いずれにせよ、今後の彼らの精進にかかってくる。(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)