両者のしこ名と出身地がアナウンスされると、東京・両国国技館内は温かい拍手に包まれた。幕下上位のウクライナ出身初の力士の獅司(25=入間川)とロシア出身の狼雅(23=二子山)が対戦し、狼雅が下手投げで制した。勝ち名乗りがあがると、再び館内に大きな拍手が起こった。狼雅は2勝3敗、獅司は1勝4敗で負け越しが決まった。

狼雅(右)の寄りをこらえる獅司(撮影・野上伸悟)
狼雅(右)の寄りをこらえる獅司(撮影・野上伸悟)

この一番を特別な思いで見守ったのが、ウクライナ相撲連盟JAPAN事務所代表の松江ヴィオレッタさん(37)。7月に米国で行われるアマチュア相撲の世界大会に出場するため、今月下旬から大分・宇佐市などで事前合宿を行うウクライナ選手団をサポートしている。仕事の都合でテレビ観戦できなかったが、ウクライナを訪れた際に会った獅司が負け越したと聞いて残念がった。それでも両力士をたたえる拍手が館内から送られたと伝えると「相手のことを深く敬う相撲の良さを感じます」と、ひときわ感慨深げに話した。

ウクライナ相撲連盟JAPAN事務所代表を務める松江ヴィオレッタさん(左)と共同代表の三池さん(撮影・平山連)
ウクライナ相撲連盟JAPAN事務所代表を務める松江ヴィオレッタさん(左)と共同代表の三池さん(撮影・平山連)

母がロシア人、父が日本人の松江さんは「どこの国で生まれたかということよりも、人と人の信頼関係が大事」と信じる。「負けた相手を敬う相撲の考え方を広めたい」(ウクライナ相撲連盟のセルゲイ名誉会長)という言葉に共感して設立したJAPAN事務所はまだ始まったばかりだが、この日の取組から受けた刺激を活力にして自分の道を突き進む。

【平山連】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)