王者井上尚弥(24=大橋)が米国に衝撃を走らせた。挑戦者で同級7位アントニオ・ニエベス(米国)を圧倒。5回に左ボディーブローでダウンを奪うと、6回終了時のインターバルでニエベスが棄権し、6回終了TKO勝ちを収めた。初回からガードを固めた相手にも、高度技術ですきを狙い、プレッシャーをかけ続け、戦意喪失に追い込んだ。本場のファンからも大きな歓声が飛んだ。

 「地獄の1万段ダッシュ」で、また肉体を進化させていた。7月下旬、静岡県熱海市の宿舎近くの山中、うっそうとした緑の中で、激しい動悸(どうき)に肩を震わせながら「きっつう!」と叫んでいた。昨年から続けている、試合前恒例の合宿だが、この時は史上最高のきつさだった。用意されたのは頂上が見えない階段。1回が200段以上、それを1日2000段以上、さまざまなメニューで登り、下半身をいじめ抜いていた。4日間で合計1万段以上、駆け上がった。下半身を強化することで、上半身に伝える力を大きくさせてきた。

 「階段できつくて歩きたくなるところでも、米国がよぎると頑張れる」。最高の発奮材料にして、心を奮い立たせてきた。強烈な左ボディーは進化の証明。その成果は、日本から米国に舞台を移しても、確実に実感できた。存分に「怪物」ぶりを見せつけた米デビュー戦だった。【阿部健吾】